このレビューはネタバレを含みます
『裏アカ』。
SNSを扱った作品では『何者』があり、SNSに依存する中で自身が「何者」かを見失っていく。という内容だった。
本作も観る前に軽い緊張感があるのは、往々にしてSNSを扱う作品では監督・脚本などの制作者側がSNSのヘビーユーザーでもなく、よくわかってないまま撮ってしまい薄っぺらになってしまう事例を観てきているので、失望したくないから。アドバイザーをなぜ立てないのかと思うが本作もそこは残念ながら
1.SNSをやるもの、なかんずく「裏アカ」を作るような者は満たされない日々と鬱屈している人間だ。
2.SNSは常に危険と背中合わせである
——といった先入観の範疇から逃れていない。
主人公伊藤真知子(瀧内公美)のキャスティングはいい。どちらかと言えば美人なのだが、やや辛気臭くやつれ感が漂っている。仕事も真面目が故に周囲とギスギスしてしまうタイプ——
まずSNSはエロだからと言ってバイラルする訳ではない。そこの事実誤認にはまず目を瞑るとして、エロい画像を見た上でDMで「会いたい」と見知らぬ者から言われて、そう簡単に会うだろうか。裏アカなのだから会ってしまえば表に出されてしまう懸念を恐れ、普通は考えにくいことだ。ここには何かアイディアが欲しかった。
また、仕事がうまく行かず男っ気もない主人公の人間性を軽んじているのか、裏アカ住人「ゆーと」(神尾楓珠)との初デートは、下町の騒々しい居酒屋に行ったあと、誘われた「ゆーと」の新築中のマンションに誘われ性交に及んでしまうが、当然スマホで行為を動画に録られている(後から動画はDMで送られてくる)
そこから味をシメたのか、一定の充実感があったのか、真知子はDMが来る相手と次々にヤりまくる。ここが極端過ぎてやや気持ちが離れてしまった。ここでも動画を録りまくられる。これが後に大きなトラブルになるであろうことはなんとなくわかる。
そのくせ、この動画が彼らからSNSにアップされたのかどうかは触れられない(普通アップするだろ)「ゆーと」には「一度きりなのでもう会わない。連絡もしないししないでくれ」と突き放されている。
しかし真知子は「ゆーと」に惹かれている。
アパレルブランドのバイヤーが生業の真知子だが、新企画で大手百貨店とのコラボ企画が立ち上がりそこで関わるスタッフとして「ゆーと」と思わぬ再会をする(これも予想通り)思いを打ち明けるが厭世的な思考の「ゆーと」に突き放される。彼も結婚が近いという。
一方、SNSでは会ってくれない事を根に持ち攻撃的なメッセージを真知子へ寄せる者もいて、これが何かが起こる布石と感じさせる。
コラボ企画の発表レセプションのイメージムービーのラストには何者かが仕込んで、真知子との性交動画が流れる。
「根に持ったSNSユーザーの正体が仕事で身近な男性なら怖いかな」と思っていたが果たしてそうだった。「ゆーと」を疑っていたが違った。ただし動画はSNSでシェアされたのかどうかもわからなかったので、動画の入手経路が不明で、そこは鑑賞者へフェアではないと感じた。
憔悴した真知子の部屋を同僚が訪ねてくるが、ドアの外から「動画の犯人がわかった」とか通路や他の住人に配慮する事もなくべらべら話しかける状況もあり得なさすぎる。普通ならスマホやLINEで伝えることではないのか(笑)
ラストはどうまとめるのかな、と思いきや、疑ってしまっていた「ゆーと」のマンション付近にフラフラと行ってしまい。プラプラさまよいながら橋の上からスマホを捨てたのか落としたのかをした後、唐突に走りはじめ、気分が悪くなって路端で嘔吐する。そんなダラダラ感のなかで唐突に終劇。
——さて、映画も小説も必ず「これを伝えたい」という「メッセージ」があるが、本作のメッセージはなんだったのだろうか。
「SNSは所詮自己逃避でしかない。その果てにあるものは危険だけだ。本当の幸福は現実世界にしかない」というオッサンの説教のようなものなのだろうか。「全然違うよ!」という感想があれば、教えて欲しい。
ともかくSNSを軸に据えているものの、現代人を掴んでいないなと感じた作品。