延々と歩く

無頼の延々と歩くのレビュー・感想・評価

無頼(2020年製作の映画)
3.6
 「パッチギ!」の井筒監督によるほのぼの人情ヤクザ映画。貧困の中に育った主人公とその周辺が、高度成長期とバブルの裏側で体を張ってのし上がっていく。

 ジュリア・ガーナー目当てでネットフリックス製のドラマ「マニアック」に挑戦したらとにかくダルくなっちゃって、息抜きに本作にうつったら2時間26分がす~っと流れていった。この「す~っ」とした感じがどんな場面でも途切れないのが好き。とても丁寧に作られていると思う。

 役者陣では阿部亮平が強烈。人間というより動物みたいな目つきで、野生の勘だけで動いてるみたいなヤクザにビビる。主役にEXILEの松本利夫を起用したのもハマっていた。

 とはいえ上記したように(暴力シーンは連続するけど)ほのぼの人情な作品であって、ヤクザが出てきてなんでそんな映画にすんねん!という批判は避けようがない。ヤフー映画のレビューなんて8割その点をボロクソに書いている。

 反社会的勢力なんて身近じゃないけど遠くもないみたいな、知ってる人は普通に知ってる存在を取り上げたらまあこうなっちゃうよね。

 セリフで触れられる「ゴッドファーザー」も、近所のヤクザをみて育ったマーティン・スコセッシなどはメチャクチャに酷評し、その噂を聞いたコッポラ監督は続編があれば彼に任せようと思ったという有名な話があるが、まあ本作も色々な意味で「ゴッドファーザー」な映画である。

 (治安の悪い足立区育ちの北野武も、「ゴッド…」に関してはまったくスコセッシと同じことを言ってますね。)

 テレビの辛口映画評で有名でもあった人だから、その本業に対して周りの目が厳しくなるのも仕方ない…しかし井筒さんの考える「映画」が、年齢のせいもあるんだろうけどこういう暖かいというか生ぬるい感じの温度で、メッセージとお説教まみれになってしまうと色々複雑なものがある。

 こんなの全部ウソだけど、映画の中くらいウソをつかせてほしい…産業も経済もボロボロいわれる世間に対して、これが正解とまでは言わんけど上が責任もって下を育てる・だから下も全力で頑張れるという形が昔はあっただろう、それを世に問わなくてどうする…そんなのすべて夢まぼろしで、足の引っ張り合いばかりで今に至るのが現実だったとしてもそんな話はもうウンザリだ…そういう考えが、無かったとは思えない。

 政治的にはかなり左寄りな人なのかとおもいきや、主人公の部下の一部がバブルに浮かれる東京に嫌気がさして右翼団体として独立しちゃった感じがあったり、メディアに痛烈に批判されるが本人は大真面目だし最後はテレビ局に押しかけ拳銃自決をとげる国粋主義の活動家(実際に起きた事件のはずだが名前が分からない)をそこまで悪し様にえがいてなかったりするのも、その流れだろう。
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