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情婦のCinemanのレビュー・感想・評価

情婦(1957年製作の映画)
5.0
『情婦』
ビリー・ワイルダー監督  
1957年アメリカ公開
鑑賞日:2023年2月16日 U-next

【Story】
舞台は1952年のロンドン。
心臓病で入院していた老弁護士ウィルフリッド卿(チャールズ・ローとン)は看護婦ミス・プリムソル(エルザ・ランチェスター)の付き添いを条件に退院が許可された。
事務所に戻ったところで葉巻もウイスキーも禁じられ、まるで口うるさい母親のようなミス・プリムソルにもうんざりしていたウィルフリッド卿。
旧知の事務弁護士メイヒュー(ヘンリー・ダニエル)が未亡人殺人事件の最重要容疑者の男性レナード・ヴォール(タイロン・パワー)の弁護を受けて貰えないかと訪ねてきた。

裕福な初老の未亡人エミリー・フレンチ(ノーマ・ヴァーデン)が自宅で何者かに撲殺された事件。
発明家のレナードはひょんなことからエミリーと親しくなり彼女からの出資を期待して自宅へ出入りしていたが無実を主張している。

ところが未亡人の女中ジャネット(ユーナ・オコナー)が生前のエミリーに最後に会っているのがレナードだ証言。
しかも死後に発見された遺言書には8万ポンドの遺産相続人としてレナードが指名されている。
遺産目当てでレナードが殺したと思われても仕方がない。
病気を理由に弁護を断るつもりでいたウィルフリッド卿は事件の概要を聞いて長年の勘からレナードが無実であると信じて引き受ける。

レナードが容疑者として逮捕・起訴された途端レナードの妻クリスチーネ(マレーネ・ディートリヒ)が弁護士事務所へ現れた。
ドイツ女まるだしのプライドの高い鼻持ちならない女だ。
夫が殺人事件の容疑者として逮捕されたにも関わらず、顔色一つ変えることなく落ち着き払ったクリスチーネだった。

戦前女優だった彼女は、終戦直後で貧しいベルリンの場末の小さなキャバレーでアメリカ兵相手に歌っていた。
表のポスターのように脚線美をステージで見せろとやじを飛ばす兵隊が彼女のスラックスを破いたことをきっかけに店内で大乱闘が始まる。
レナードは偶然その場に居合わせた。

大騒ぎが一段落し、一人で自分のアコーディオンを探しているクリスチーヌに優しく接するレナード。
二人は恋に落ちレナードはクリスチーネをイギリスに救い出して結婚した。

夫のアリバイをクリスチーヌに証明してもらうつもりだったが、
鼻持ちならないドイツ女性だということと容疑者の妻の証言はむしろ陪審員に反感を買うだろうという判断でウィルフリッド卿はクリスチーネを証言台に立たせないことにした。

ロンドン中央刑事裁判所で裁判は始まった。

検察側は証人を巧みに誘導して裁判を有利に進めようとするが、ウィルフレッド卿は次々と切り返していき弁護側有利と思われていた。
検察側は最後にある証人をひっぱりだしてきた。
それはなんとクリスチーネだ。
思いもしない展開にウィルフレッド卿も驚く。

しかもクリスチーネは証人台で未亡人を殺したのはレナードで、自分は夫から偽証を強要されたと証言し始めた・・・

この映画の最後に観客へのメッセージがあります。

この映画をご覧になってない方々のためにも結末は決してお話にならないように。

ということなので物語はこれ以上語りません。

とにかく終盤のどんでん返しに次ぐどんでん返しは圧巻です。
ミステリー好きであれサスペンスを見慣れた映画ファンであれ結末には驚ます。

【Trivia & Topics】
・原作はアガサ・クリスティが短編小説として発表した作品をクリスティ自身が舞台劇として脚色した「検察側の証人」。
クリスティが見事に緻密に積み上げたミステリーを一級のエンタテイメント映画に仕上げたビリー・ワイルダーには拍手喝采です。

・ウィルフリッド卿と看護婦ミス・プリムソルの夫婦漫才。
冒頭、退院して事務所に戻ったウィルフリッド卿と看護婦ミス・プリムソル。駄々をこねるワガママな子どもとしつけの厳しい母親のような丁々発のやり取りは見ものです。
なにしろチャールズ・ロートンとエルザ・ランチェスターは実際の夫婦ですから。
ランチェスターは本作品でゴールデングローブ賞 助演女優賞を受賞した。

・画面はほとんど法廷の中。
にもかかわらず退屈しないのはウィルフリッド卿の眼鏡、魔法瓶、薬のタブレットなどの小道具の扱い方が巧みだからでしょう。

・いい男だけどいい加減な奴。
母性本能をくすぐるダメ男的レナード役のタイロン・パワーもはまり役。当時43歳。
この作品の翌年にスペインで心臓麻痺のため急逝。
本作が遺作となりました。

・鼻持ちならないドイツ女と言ったらこの女性しかいない。
ワイルダーが監督することを条件に出演を承諾したマレーネ・ディートリヒ。素晴らしいのは脚線美だけではないことをこの作品では痛いほど見せつけます。
アカデミー助演女優賞の候補にもならなかったというのが不思議だ。

何度も観ている映画ですが今回初めてラストシーン間近から涙が止まりませんでした。
こんなことは初めてです。
ディートリッヒが素晴らしい。
そして、
彼女が演じたクリスチーネという愛あふれる人への涙だったと思います。

【5 star rating】
☆☆☆☆☆
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