かつて伊集院光さんが「週末TSUTAYAに行ってこれ借りよう!」で本作品のチャールズ・ロートンを評し、「過去にこんな人がいたのなら、俺はどんなに努力しても、一生、デブの世界一にはなれないなと思った」と言っていた。
それだけ本作のロートン演じるベテラン弁護士は生き生きとしている。性格はひねくれているんだけど、どっか憎めなく、逆にこの偏屈おじさんに対して、愛らしさまで感じてしまう。
数あるアガサ・クリスティ原作の映画の中でも、最も成功した作品であるが、それは単にプロットの奇抜さだけの作品ではないからだと思う。
ロートン以外にも、ミステリアスな人妻を演じたマレーネ・ディートリッヒ、いかにも好漢な被告人タイロン・パワー、ロートンの天敵であるオバサン看護師エルザ・ランチェスター、そしてヒステリックを絵に描いたようなウナ・コナーと、いずれもこれ以上はないような素晴らしい配役だと思う。
特に驚いたのが序盤の裁判がはじまる前のストーリー。
開始40分間、ずっと弁護士事務所のシーンが続くのにもかかわらず、観ている我々を全く飽きさせない。
これはストーリー展開だけではなく、ワイルダー監督の人物造形がしっかりできているのと、それに応える演者たちの技量によるものからだと思う。
それこそがビリー・ワイルダー作品の一番の醍醐味ではないかと思う。