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ファーザーのradioradio526のレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.3
「全ての葉が失われていく感覚…最後に辿り着くのは…」

「ファーザー」鑑賞。

アンソニーはロンドンで暮らす80過ぎの男性…認知症による記憶の薄れが酷い。
娘のアンは介護人を手配するがアンソニーは拒否。アンは新しい恋人とパリで暮らす為に今までのように頻繁に面倒をみることが出来なくなることを告げる。
そして何故かアンソニーの自宅には「アンと結婚している」という見知らぬ男性が現れて、ここは自分の家だと主張する。
アンソニーにはアンともう一人の妹がいたはずだがその姿は無い。

老人介護、中でも認知症を題材にした作品は多く撮られているが、この作品は認知症患者の側の目線で語られる珍しい作品。
故にストーリーそのものがまるで迷路に入っているかのような不安となり、迫ってくる。
アンソニーは繰り返し襲ってくる不安と葛藤の中で自我を保つ為に言い放つ、「ここは私のフラット(家)だ!」と。
躁鬱にも感じるくらいの演技はチャーミングであったり、エキセントリックであったりするが、それは自我を必死に保つ老人のありきたりの姿を表現している。
様々な感情を行き来するアンソニー・ホプキンスの深い演技に引き込まれていく。
カメラワークに微妙な含みを持たせていることも途中から気付く。
冒頭、私のフラット(家)という玄関を徐々に広角で撮る手法にも微妙な違和感の演出が差し込まれている…そして、それは繰り返していく。
腕時計がトリガーになっている辺りもリアリティを感じずにいられない。元は舞台だったと聞くがこれは映画の方が向いている本なんじゃないだろうか。

名優アンソニー・ホプキンスはこの作品でアカデミー主演男優賞を獲得。
インタビューにてアンソニーは自身の父を演じたと話している。アカデミーの会場にも姿を現さなかったアンソニーはもうこれを以て引退なのかと思いきや、インタビューの最後に語っている「まだまだ引退する気はない。私は老戦士だ」
レクターは死なないのである。
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