リーアム兄さん

ファーザーのリーアム兄さんのネタバレレビュー・内容・結末

ファーザー(2020年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

【好きなセリフ】
アンソニー「すべての葉を失っていくようだ。枝や風や雨・・・何が何だかわからない。」

アンソニー(アンソニー・ホプキンス)には認知症の兆候が現れていた。娘のアン(オリヴィア・コールマン)は父が1人ではもはや生活できないと思いヘルパーを雇うことにする。しかしアンソニーはヘルパーが必要なほど老化してはいないとすぐにヘルパーを辞めさせてしまう。ヘルパーに頼れない分、アンは自宅にアンソニーを住まわせ、献身的に介護をすることを決めたが、症状が悪化し、アンだけでなくアンの夫にも負荷がかかり始める。次第に自分の置かれた環境すらもわからなくなっていくアンソニーに対してアンや夫は介護施設にアンソニーを預けることまで本格的に考え始める。そうこうしているうちにもアンソニーの病状はどんどんと悪化していく。

「認知症」をテーマにした映画というより、本格的なドキュメンタリー。
見始める前は認知症に蝕まれていく父親とそれを支える娘といういわゆる「ハートフル」な話かと思ったが、そんな優しいものではなく、認知症に侵攻される人間をリアルに表現し、アンソニー・ホプキンスの素晴らしい演技とアンソニー視点で進められるストーリーによってエグいほど残酷にそして鮮明に視聴者に「認知症体験」をさせる映画だった。

自分がいまどこにいて、誰と話していて、どの時間に過ごしているのか。すべての時間軸がぐちゃぐちゃになるとともに、頭にの中にある記憶がすべてではないが、一部の記憶をどんどん塗り替えていく。
ある場面では介護施設の看護師が娘になり、また違う場面では介護施設のスタッフが娘の夫になり、また次の場面では亡くなったアンの妹(=アンソニーの娘)が介護人になる。
当事者はとてつもない恐怖だと思うし、それを支えていく家族も受け入れ難い状況になると思う。
どのように対処していくのが正解なのだろうか…

認知症について説明している本や医者の説明よりも、はっきりと認知症になった当人が見る景色・感覚を理解できる、そういう面で素晴らしい映画だった。