おきみやげ

ファーザーのおきみやげのネタバレレビュー・内容・結末

ファーザー(2020年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

 認知症となった老人視点で描かれる現実と幻想の入り混じる世界。
 だけど忘れてはいけないのがこの映画のタイトルは“オールドマン”ではなく“ファーザー”であり、この老人を父として見る人間がいるという事。つまり娘のアンこそが主人公である。
 映画のほとんどは老人(=アンソニー)の視点で進んでゆき、確かな足場を失った現実が次々と描かれていく様はさながらホラーだが、何よりも恐ろしいのはこれはアンソニーの夢でも幻想でもなく歪められた認知の世界でありその裏にアンという個人が存在している事。アンソニーの為に献身を続けるアンが払っている愛と犠牲の深さが、アンソニーの歪んだ認知の世界を主に描く事で逆説的に浮き彫りになっている。
 個室に残されたアンソニーの涙は最後まで側にいる事ができなかったアンの涙であり、ママと繰り返すアンソニーの叫びは終ぞ両の腕で抱きしめてもらえる事のなかったアンの悲しみなのだと感じた。