ゆかちん

ラスト・シフトのゆかちんのレビュー・感想・評価

ラスト・シフト(2020年製作の映画)
2.8
思ってたようなホッコリヒューマンドラマではなく、シビアな現実を突きつけるようで、映画を見てるというよりドキュメンタリーを見ているようだった。
割とリアルは、こういうことなんだろうなぁ…と。



高校を中退し、地元のファストフード店で38年深夜勤務をこなしてきた高齢のスタンリー(リチャード・ジェンキンス)は引退の日が近づいていた。だが、彼の後任となるジェボン(シェーン・ポール・マッギー)が現れたことで、最後の勤務となる週末は様相が変わってしまうーーー。



そんなにワクワクするような面白さはないけど、社会問題を絶妙に表現してるなぁと感心した。

スタンリーは白人高齢男性。
でも、学歴はなくワーキングプア。
白人の貧困で独身。
離れて暮らす年老いた母と弟がいる。

ジェボンは黒人青年。
正義感が強く警察に捕まって保護観察中で職なし。
若くして子持ち。
家はなく親戚の家に世話になっている。
妻(もしかしたら同棲してるだけかも)はその家から子どもを連れて出て行った。

両方とも社会の底辺にいると言える。

⚫︎スタンリーについて
スタンリーは毎日酔っ払いに絡まれながらも、38年きっちり働いてきた。
それはそれで誇りに感じている。
その成果も実を結んでいて、客にもお店の人たちにも信頼されている。
ただ、これでよかったのかという想いは拭えない。

そこへきて、ジェボンが現れ、「この給料で38年やるなんて搾取されてただけ」と現実を突きつけられる。
退職前も、ジェボンが一人前にならないと給料やらないと言われてしまう。

挙句の果て、コツコツと貯めてきた全財産が夜中のスーパー帰りに何者かに襲われて盗まれてしまう。
母のために引越ししようと家を売り払った後なので、家も無くなる。
仕事も辞めるので仕事もなし。

なんやろ、この人、なんでこんなに運がないのか。
いわゆる「ツケが回って」こない。
人生て良いこともあれば悪いこともあるし、何か徳を積めばその分どこかで返ってくるようにできてて欲しいのに。

で、それで何か救いがあって終われば良い話で終わるんだけど、そうではなかった。
スタンリーは、全財産盗まれた勤務最終日、全てを恨み、その日の儲けからお金を盗む。
後で見つかっても、長年の信頼のあるスタンリーと保護観察付きの数日来ただけのジェボンなら、そりゃジェボンが疑われるよね。

むー。
スタンリー、それはあかんやろってなって、酷いし救いようがないなぁと思うけど、なんか可哀想だし、哀れなんだよね。。。

そして、罪悪感はあるため、後日バスでジェボンと乗り合わせた時、気まずさから先に降りる。
なんとも悲哀。


⚫︎ジェボン
自分の正義を貫くタイプやし、若いし青い。
スタンリーにズケズケと失礼なことも言う。

でも、彼なりにスタンリーから学ぶことは学び、彼に心を開いていたんだろうな。
もちろん、スタンリーも彼に心を開いてはいた。

だから、最初はバカにしながら適当にやってた食材や食器の扱いとかも、段々真面目にやり出して、引継ぎ終わる頃にはきちんと清潔に仕事をしていた。

でも、スタンリーに裏切られた。
彼は怒ったと思う。

でも、この経験を経て、また、大学に通うと前に進み出した妻と話したことで、彼自身、何かすっきりとして前に進みだす。

スタンリーとバスに乗り合わせた時も、怒ってスタンリーに詰め寄るでもなく、彼がバスから降りたので全てを察したくらいで、それについて責めることもしない。

彼の中で、この現実を理解し、スタンリーを憐んでいたのかなぁ。
その後、ライターの夢をちゃんと追いかけはじめた描写があり、彼は前に進んだ。

まさに「人の振り見て我が振り直せ」だったのかも。
彼は自分の視野の範囲で社会に噛みついていたけど、本当の社会を見て何か学んでいたのかなと。

ジェボンはまだ若く、やり直しも効くのが対比にもなっていた気がする。。


⚫︎黒人と白人

スタンリーの同級生の黒人学生が白人学生に殺された話でクッキリと。

ジェボンは、その黒人学生に同情している。
そりゃ視聴者の私たちもそう思う。
周りの学生は何をやっていたのか。罪悪感はないのか、と。

で、スタンリーや友達はというと、罪悪感がないわけではないけど、どうすることも出来なかった、被害者も気をつけようとしなかった、という言い訳で考えないようにしていた。
いじめを目撃している人も同じだなぁ。

ただ、被害者が白人だったらどうだろう?
スタンリーはどうやら人種差別を積極的にしているようには見えなかったので、被害者が白人でも同じようにしてただろうとは思う。

でも、ジェボンはそこもひっかかってそう。


あと、黒人女性のオーナー?に「不当に扱うな」とスタンリーが言ったとき、彼女が、本当の不当はこんなもんじゃない、不当なんて軽く言うな、と言わんばかりに睨んでたのが印象的。

黒人で、しかも、女性。
そりゃめっちゃ不当な扱い受けてきたんやろなぁと。
それを白人男性がやすやすと言うなという。

でも、ちゃんと給料払わないのなら、不当は不当やと思う。
度合いは違うやろけど。

でも、知らない間に優遇されている…黒人だからってだけで受ける不当な扱いを受けていない…てところも、それに気づいていないことも炙り出す。

でも、だからといって、正当な扱いとは言えないことに不満を言うなと言うのも変な話だよなー。

でも、こういうそれぞれの層による格差や差別になるほどと思った。

白人だから黒人に比べて優遇されてるんや甘えるなって言われてもなーとか。
でも、黒人の人が受けている不当な扱いについて想像をしないといけないのもあるし。

ジェボンを疑ったのが黒人女性のオーナーだったのもミソなのかな。まあ、スタンリーには功績があるしなぁ。。

でも、やっぱ自分でなんとか立ち上がらないといけないよね。
不当な扱いを受けることはおかしい。
それは改善しなければならない。
でも、改善しないからその現状のせいにして腐っていくのではなく、自分で立ち上がる努力は必要だよねっていうことを示しているようだった。

現状に甘んじず、自分で立ち上がる努力をしていれば、スタンリーももっといい生活していたかもしれない。
まあでも、それも経歴から難しかったかも。
いや、本人も言うてたように、この仕事が向いてたからこれでいいと思ったからかもだし。あと、転職してても周りに恵まれるかわからんしなぁ。
なんか、その過去を否定することはその人の人生そのものを否定するみたいでキツイなぁとも思っちゃったり。

なんかモヤモヤと考えさせられました。
ゆかちん

ゆかちん