桃田はぢめ

キネマの神様の桃田はぢめのネタバレレビュー・内容・結末

キネマの神様(2021年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

正直、期待しすぎていた部分はあったかもしれない。原作未読ですが、思っていた内容とは違った。けれど、素人のわたしにも流れとオチが読めてしまうような、よく言えば王道、悪く言えば在り来りな作品でした。もちろん感動する部分もあり、涙しました。クスリと笑えるような部分もあり、楽しかったです。でも松竹の100周年記念作品として掲げられている以上なにかもっと唸るような内容になっていればなあと感じました。
コロナのくだりはいらなかったと思う。映画作品の中でだけは忘れたいから。この話に何の関係がある?唯一結びつけた映画館の経営難もコロナじゃなくたって次第に古い映画館は経営が難しくなるから、それでいいのに、どうして。実際にこういうことが起きているよということを山田洋次監督なりにこの映画を通して伝えたかったのだろうか。

郷直と娘には一切感情移入できない。
娘は都合が良すぎる。あれだけ借金がどうたら言っていたくせに息子には「借金なんてどうにかなるから」なんて言ってる始末だし、「おじいちゃんの才能を見つけ出してくれて嬉しい」って、オイオイ。お宅のお父さん、闇金に手出してるんですよ!それに受賞の代役は共同制作者の孫が貰うべき。どうして娘?年齢制限ですか?
郷直は本来繊細で自分に自信がなく弱い人間は確かに逆に強がってしまう部分もあるのはわかるけれど、わかるんだけど自分の悪い所を直そうとしようよ。悪いことをしてしまったと思っているんであれば。吸い飲みに酒を入れて飲むな〜〜〜〜!!
あとテラシンが良いキャラクターだっただけに設定が甘くて残念。描かれていない部分がたくさんありすぎてもったいない。それに郷直から「淑子はお前(テラシン)とくっつくべきだ」と言われるのも不憫でならない。淑子が郷直を選んだんだぞ?くっつくべきと言ったってお互いが合意しなければならない。淑子は郷直を選び、郷直はそんな淑子に同意したのだ。そんなことを言っておいて、テラシンを差し置いて。
郷直との喧嘩のくだりもあっさり仲直りしていてどういうこと?となった。部屋から追い出すぐらい怒っていたのに淑子はどうするのかと二人の仲を心配していた。経緯が知りたいんですけれど。少しでも二人で飲みに行って、「あのときは悪かったよ。自分に自信がなくて……」「ああ。淑子さんは郷と一緒になった方が絶対に幸せだよ」みたいな会話でもあればよかったんですけれどね。あと、せっかく泊めていくからみたいなくだりがあったから、テラシンの家庭が覗けると思ったのにそうはいかなかった。どういう生活をしているのか気になるじゃないですか!淑子を諦めたあと、どういう人生を歩んだか、どういう人と結婚したのか、していないのか。凄く凄くいいキャラクターで、野田洋次郎と小林稔侍の芝居が素晴らしいからこそ、追求したくなってしまう。

これは個人的に好きなだけですが、落とし方は徐々にアップになっていく菅田将暉の「本番!よーい、アクション!」の声に続くカチンコの音でタイミングよくブラックスクリーンにパッと切り替わり、エンドロールが流れる……というのがよかった。これこそ在り来り?でも好きなんです。

エンディングソングも似合っていないような気がした。今どきソングすぎる。中の人的に郷直とテラシンが歌っているんだと考えたら激アツなのかもしれない。が、もっとさだまさしとか吉田拓郎とか懐かしい寂しげなフォークチックな歌にすればよかったのになあと思ったり……




役者・沢田研二は素晴らしく良かった。劣化しただのなんだの言われていたけれど、彼の本職は歌手であるのだから、容姿がどうなろうと本人の勝手である。しかしやっぱりあの頃のジュリーの面影は残っていた。艶のある視線、あの指先、懐っこい笑顔、それから変わらない美声。あの美貌から繰り出される関西人らしい大袈裟な話し方や身振り手振りも若い頃バラエティ番組で披露していたものだった。あの頃は見た目に似合っていなかったそれも、いわゆるオジンになってしまった今のジュリーもとい沢田研二にはお似合いで、それを生かして彼らしいチャーミングな素晴らしい芝居をしていた。もちろん亡くなった志村けんの意思もしっかり受け継いでいる芝居でもあった。
山田洋次監督作品だけあってやっぱりキャスティングは見事だった。菅田将暉が老いて沢田研二になることも、野田洋次郎が小林稔侍、永野芽郁が宮本信子になることも全く違和感を感じさせなかった。もちろん名脇役たちも豪華だった。キッチュとKEEなんかは本当に一瞬しか出てこない。
もちろん見に行く動機の一人となったリリー・フランキーも良かった。彼は芸術人間だから映画監督役がよく似合っていた。自由奔放に映画を撮り、日本の役者を邪険に扱う映画監督、実際にモデルが居たんだろうなと感じました(笑)



最初に書いた通り少し期待はずれではあったけれど、普通におもしろかったです。でも何回も見たいほどじゃない。ぶっちゃけ沢田研二が目当てで行ったので、彼が出ていなければ見に行っていなかった。この類の映画というか山田洋次監督の作品ってあんまり得意じゃないから。でも見て良かったかなあとは思えた。友達や親にはオススメできないけれど、おばあちゃんにはできるかも。実際場内の9割が老人だったから。山田洋次監督もきっと映画で一生を終えたいと考えているんだろうなあ。



結論、わたしも沢田研二に「童貞のくせに!」と言われたい!と思った作品でした(^_^)v