てる

キネマの神様のてるのレビュー・感想・評価

キネマの神様(2021年製作の映画)
1.8
んー。山田洋次はもうおじいちゃんになっちゃったんだねぇ。なんというかキレがない。この作品に人間ドラマを感じない。山田洋次テイストは感じるんだけど、かつての作品のような深い感動はどこにもなかった。彼もこうした死に方をしたいのだろうか。この作品に描かれているのは、録でもない男の美化された死に様だ。
アル中でギャンブル好きで借金持ちで、本人はなんの仕事もせず、娘に借金を返させ、あまつさえ、金を無心してくる。こんなのが、身内にいたなら、直ぐ様、縁を切ると断言できる。共感できるところがない。この男にも家族にも。
家族が甘すぎる。こんな男が親ならば、一生借金がついて回る。関係ないと切り離してしまうべきなのだ。だが、賞を受賞し、お涙頂戴の手紙でまんまと涙を流している。私には無理だ。受賞したところで、他人事として、あぁ良かったねくらいにしか思わない。というか受賞式は共同制作者の孫が賞状を受けとるべきだ。
話が上手すぎる。どういう人生を歩んできたのかは描かれていないが、人に迷惑をかけながら生きてきて、半世紀前のシナリオを書き直して、100万円受賞ってそんな上手い話しあるかいな。最終的には受賞できずにぬか喜びだったけど、活力を取り戻して、昔の自分を取り戻して新しいシナリオを書き始めるみたいな方がよっぽど共感できる。結局、賞金のほとんどを映画館に寄付するが、借金どうしたの? そういうとこもカッコつけすぎて気持ち悪い。自分のことも家族のことにも満足に出来ていないのに、映画館に寄付する余裕なんてあるの? せめて自分で渡せよ。娘はそれでいいんかいな。
菅田将暉と沢田研二が繋がらない。熱意も持っていたのは伝わるが、メンタルが弱すぎる。そんな弱いメンタルなら確かにすぐに辞めた方がいい。ただ、その程度の挫折で仕事を放り投げてしまう責任感のない人間にやれる仕事なんてないと思うけど。挫折したまま半世紀生きてきたってこなの? シナリオを書く才能があったのかもしれないけど、だからなに? 映画で生きるってそういうことじゃない。その死に様って美しいの?
永野芽郁がなぜこの男と結婚したのかわからない。この男のどこに惚れたのだろうか。この女の考えがまるでわからない。私が幸せにするなんて啖呵を切ったものの、自由にさせているだけで行動に移していない。あまつさえ、死ぬ間際には片隅にもいなかった。
かつての美しい女優に導かれてこの男は映画の中で死んだけど、奥さんに対するリスペクトはないのだろうか。散々迷惑をかけた奥さんの腕の中で死んだ方がよっぽど美しい。この男は結局のところ自分のやりたいことだけやって、自分勝手に死んだのだ。羨ましい。自分のことだけを考えてくれる人に囲まれて、自分の好きなように生きられる男の生涯が羨ましい。
これは山田洋次の願望なのではないだろうか。ボロボロの人生だけど、キレイに死ねる。そんなわけないじゃん。自分勝手な生き方をしていたら、周りの人は離れていくし、それ相応の死に方しか出来ない。もっとドラマを描いてくれよ。昔はもっと面白いもの作っていたじゃん。悲しい。ただただ悲しい。
てる

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