ずどこんちょ

グリーンランドー地球最後の2日間ーのずどこんちょのレビュー・感想・評価

3.7
一時期こういう隕石パニックもの結構やってましたけど、最近あまり見てなかった気がします。久しぶりのハラハラ感。

恐竜絶滅時よりも規模の大きな彗星の衝突が目前に迫る地球。地球壊滅の危機まであと2日という状況下を描きます。
主に秩序が乱れた終末期の人間を中心に描くドラマです。混乱の最中、人間の善悪を描くのです。

彗星衝突が発覚してから、衝突までの2日間をジェラルド・バトラー演じるジョンとその妻子の視点から描くのですが、冒頭からリアル。
まずは大統領アラームによって、選別された国民に対してのみ緊急避難命令が通知されます。個人のテレビやスマホに個別に送られてきて、指定の軍基地へ避難するよう命じられるのです。
その日、ジョン一家は地域の住人とパーティをする予定でした。だから、ジョンのテレビに通知が来ていることを地域住民も知ってしまった。
その結果、限られた荷物を持って車を出発させようとするジョンたちの行手を阻み、助けを求める者も現れます。
ついさっきまで仲良くしていたのに、「せめて娘だけでも連れて行ってくれ」と懇願する母親の願いを断るのは、とても辛いものです。しかし、連れて行っても選別されていない国民は軍基地へは入れません。そこで置き去りになってしまう。
ジョンの決断は正しいのですが、泣きじゃくる女の子の命を見捨てるのは心が痛みます。

人間の善悪を描くというテーマが置かれている中で、おもしろいのがジョン一家は実は崩壊寸前だったということ。
その原因はジョンの浮気です。つまりジョンは決して完全なる善人ではなかったということ。妻アリソンはまだ許しておらず、しばらく二人は疎遠になっていました。

地域住民の願いを聞き入れられなかったジョンでしたが、その後、ジョンは数々の試練を乗り越えていきます。
途中、選別者対象のリストバンドをつけていたジョンはそれを奪おうとするならず者と喧嘩になり、誤って相手を殺してしまうのです。
正当防衛だったとは言え、この事故はジョンを動揺させます。ジョンは自分が秩序を乱す悪人の一人になってしまったと自分を責めたことでしょう。

ところが、ジョンは人の悪意にも触れましたが、同じぐらい善意にも触れました。
家族と離れ離れになったジョンのためにトラックに乗せてくれた運転手。
目的地に着いたら一緒に軍のシェルターがあると噂されているグリーンランドへ行こうと誘ってくれた青年。
浮気をしたジョンを諭して最後まで家族を守ってくれと愛する娘を託してくれた義理の父。

その結果、小さな隕石の破片が降り注ぐ中でジョンは命を賭けて車の中に閉じ込められた見ず知らずの他人の救助に当たるのです。一歩間違えれば自分も犠牲になる行為です。それでもジョンは目の前にいる人を助けるために突き動かされました。
助けられる人は助けたい、というジョンの行動は評価されるべきです。

一方で離陸直前の飛行機の前に車で立ち往生して離陸を阻む行為は、最後の頼みの綱とは言え、賛否両論あるかと思います。
ジョンにとっては家族を守るためとは言え、立場が変われば自己本位とも取れます。

つまり、人は善人、悪人で評価できるものではなく、どんな人も善行と悪行をなし得ると言えます。

途中で明らかになるのですが、国民の選別はどうやら無作為ではなく、ましてや貧富の差でもなかったようで、噂によると終末後の世界に必要な職業で選別されているようだということが耳に入ります。
ジョンの仕事は高層ビルの建築設計士。他にも選別された人には医師などがいました。軍やマスコミで正式に発表されたわけではありませんが、理屈の上では納得できる噂です。
ただ、どの仕事のどの人が役に立つかどうかは、決して個別に判断しているわけではなく、見ず知らずの誰かやコンピューターがある一定の基準に沿って判断しているだけなわけです。
どんな生き方をしていても、命は人類を生かすための天秤によって図られる。そしてそこに人間の感情は挟まれない。

だからこそ、糖尿病の息子ネイサンの搭乗は拒まれたのです。生き残った後の人類にとって持病があることは選別の基準に沿わないから。
理屈上は頷けますが、あまりにも残酷な事実。そして、この選別行為自体が、決して「善」ではないと思わされます。かといって、それが「悪」かと言われればそれも違う。感情や道徳を抜きにして理屈で命を選別するしかない状況なのです。

善悪で判断しかねる状況下で、いかに人間は善行を貫けるのか。
ディザスタームービーで人間ドラマを描くなら、やはりここにフォーカスが当てられます。

最初に軍基地にたどり着いたとき、ネイサンの薬を車に忘れてきたことをきっかけに、ジョンと妻子は離れ離れになってしまいました。
大災害時に家族と離れ離れになって連絡が取れなくなることがどれほど不安なことか。怖いです。
隕石でなくても非常事態ではきっとこうなります。携帯も通じなくなり、家族と意思疎通を図ることすら難しい状況になります。災害ダイヤルも混戦して通じない。
ジョンは緊急時に使えない電話なんてと苛立ちますが、まったくその通りです。
こういう時、日頃から家族で共通の落ち合う場所を決めておくのはやはり大事です。

更に悪いことに、アリソンとネイサンを拾ってくれた夫婦がアリソンの選別対象者のリストバンドを強奪し、ネイサン一人を誘拐して軍基地へ向かってしまいます。
最悪です。連絡が取れない中、息子を誘拐され、置き去りにされてしまうのです。
まさに悪行ですね。

ところが、夫婦の計画は失敗します。軍の入り口で身分を偽って入ろうとした夫婦でしたが、7歳のネイサンがこの人たちは両親ではないと軍人に訴えるのです。
あの子が勇気を出して自分が攫われたことを打ち明けてくれて良かったです。その後、保護してくれた軍人さんも優しくて泣きそうになりました。
後から追い付いたアリソンと保護テントで再会できた時は本当に安心しました。

ジョン一家の視点を通してこの危機を見たというのが上手いと思いました。
こういうディザスタームービーにありがちな世界各地の隕石衝突シーンや、政治家やNASA職員の奮闘劇はありません。世界規模の危機について現状を見聞きすることができるのも、一家がテレビやラジオのニュースと触れた時のみ、または緊急速報が通知された時のみです。
あくまで一家の視点でずっと描いているため、どっぷり彼らに感情移入してしまっています。だからこそハラハラしたり、感動したりするのです。

軍の人たちが皆、良い人過ぎて。まさに「善行」の象徴なのです。
軍人でも99%が自分の家族も選ばれていないのに、志願してこの緊急事態下で任務にあたっています。糖尿病のネイサンの搭乗を拒むのも冷徹に見えますが、その命令をしている本人の家族も決して選ばれていません。そればかりか、ネイサンのために必要な薬やキットをくれるのです。
家族と一緒にいたり、残りの時間を自分の故郷で過ごしたい人もいるでしょうに、最後の最後まで使命を全うしようとしているのです。
こういう渦中の人たちの助けは本当に心が震えます。

タイトルの「グリーンランド」は主人公たちが目指す、軍のシェルターがある場所です。ジョンとアリソンは一連の危機を乗り越え、家族を愛していることを思い出します。
地球壊滅規模の隕石が衝突し、地上の動植物の70%以上が死滅しました。灰に覆われた地球はもはや人の住める安住の地ではなくなってしまいます。
このグリーンランドから新しい人類の一歩が始まるのです。
その新しい世界が選別された国民による、善意に満ちた世界であると良いと思います。