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チィファの手紙のQTakaのレビュー・感想・評価

チィファの手紙(2018年製作の映画)
4.0
一人の女性をめぐる”愛”の物語だった。
そこには、亡くなったその人とその人を想う、時を超えた人々の姿があった。
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日本映画『ラストレター』とは別の映画だけど、比べて見ても面白いと思った。
俳優の違いや土地の違いが、物語の核心を魅せてくれた気がした。
物語の始まりは同窓会。
これって、中国でも有りなんだね。
昨今の事情を考えると、田舎から都会へ出て行く若者が多いのだろう。
そんな同窓会での不思議な再会は、日本版と似た感じで受けとめられた。
文通が始まるのだが、その行き違いなやり取りも同じだった。
ただ、このあたりのやり取りの場面で、見慣れたキャスト達の日本版と違って、役者をよくよく見て行かなければ混乱してしまいそうで、映画の見方がちょっと違ったかもしれない。
回想場面と現実の繰り返しで映画は進むのだけど、このあたりも日本版と同じくスムースに見られた。この時間と回想の場面は作りての上手さを感じるところでも有る。と同時にこの表現がこの映画の核心なんだね。
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映画の見やすさは、日本版を見ていたからと言うことも有るだろう。
ストーリーのほとんどは、日本版と同じで、登場人物もほぼ同じだった。
(子供たちのポジションがちょっと異なるのは、中国独特の社会背景のためだとどこかで岩井監督が書いていた。)
だから、次に起こる事も予想できていた。
だからと言って、面白くないなんて事は無い。
物語が進むにつれ、(どんどん先が読めてくるのだけど)新しい何かを感じとるようにもなる。
亡くなった姉(お母さんであり、かつての恋人であり)を巡る物語なのだが、それぞれが知り得なかった姿に、それぞれが向き合って行く。
男は、彼女と別れた後の姿に向き合い。
娘は、母の幸せだった頃の姿を知る。
妹は、憧れだったその人を前に、姉の死を告げる。
誰も幸せになれそうにない関係なのだが、そうじゃない。
それぞれが、亡くなった一人の女性を前にして、彼女の死を悼むのでは無く、その人の生きた姿を優しく受けとめて行った姿がスクリーンに有った。
それは、その女性が最期まで生きた事実を確認する姿であり、決して悲しむだけが故人との向き合い方では無いことを教えてくれた。
生きたことの美しさをそこに認めた人々の姿を美しく描いた映画だった。
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二人の子供に宛てた遺書。
この文章は、物語冒頭の同窓会、男が回想する中学の頃の場面、その他なんどか映画の中で読まれる。時に中学生の彼女の肉声として、時に男の回想する思いの中で、そしてラストシーンでは、その子が母の文字を読み上げる。あるいは、妹が男から受け取った文として読む。
そこに記されたメッセージは、卒業式の式辞であったが、その内容を見ると、若者全般に聞かせたい言葉のようにも思える。
あるいは、全ての人々に、過去を振り返りつつ、そこに生きる原点を見つけながら、次の一歩を踏み出すための力を与えてくれるようにも受け取れる。
そんな”手紙”を、映画の中心に据えた岩井俊二監督の物語の作り方に感銘を覚える。
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映画を見終わって、印象に残るシーンが有った。
男二人で交わすビールだ。
日本版では、小説家の福山雅治と謎の男の豊川悦司のシーンだった。
あのビールの味が気になった。
味も無く、ざらざらとした舌触りしかない。
そのシーンを見ながら、日本版をふと思い起こしていた。
役者は異なるけど、このシーンはとても魅力的なシーンだと思った。
そして、見終わって、ビールを飲みたくなった。
美味いヤツを。
図書館のシーンが出てくる。
日本版では、窓の大きな近代的な図書館だった。
一方、”チィファ”では、クラッシックな白壁の美しい図書館だった。
どちらの図書館も、ちょっと高いカメラ位置から俯瞰するように眺めていた。
そうすると、魅力的な空間に引き込まれるような感じがする。
その、美しい図書館、ちょっと行って見たいなぁと思った。
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”手紙”を巡る二つの物語。
この前章と言えるもう一本が有ったことを知った。
ドラマ『チャンオクの手紙』(岩井俊二監督)が、Youtubeの岩井俊二映画チャンネルで期間限定公開されていた。
こちらは、韓国で撮影されていて、主役はぺ・ドゥナさんだった。
全四話の短いドラマであるが、展開の妙というか、ぺ・ドゥナの圧巻の演技力というか。
とにかくイイドラマだった。
主婦を中心に描き出された家族の風景に、義母からの手紙がステキな展開をもたらす。
物語としての美しさは、ぺ・ドゥナを初めとする俳優達の名演によって見るものを揺り動かす。
監督岩井俊二の描き出す上質の映像が堪能できるドラマでした。
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