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コレクティブ 国家の嘘のkyokoのレビュー・感想・評価

コレクティブ 国家の嘘(2019年製作の映画)
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2015年に起こった、ブカレストのライブハウス「コレクティブ」での火災映像は、当時ニュースでもよく取り上げられていた。誰よりも早くメタルバンドのボーカルが逃げ出していたことも、ものすごいスピードで天井を舐めるように炎が這っていく様子もよく覚えているものの、27名が死亡し180名が負傷したこの事件が、その後、行政と病院の癒着をめぐる大キャンダルへと繋がっていったことについては全く知らなかった。

致命傷でなかった負傷者が入院先で亡くなり、最終的に死亡者は64人に。やがて複数の病院で使用されている消毒液が表示より1/10の濃度しかなく、殺菌が十分でなかったことによる感染症が死因であることがスポーツ紙「ガゼタ・スポルトゥリロル」によって明らかにされた。
割と早い段階で消毒液が薄められていたことが判明するので、ここから延々この話なのかと思ったら、まあ、出るわ出るわ。行政、製薬会社、病院、大学、いたるところで根腐れを起こしている。製薬会社の社長が謎の死をとげるなんて、闇の深さがロシア並み。患者が放置されているかなり衝撃的な映像もあり。

次々と暴露される事実に、この国が変わるのは容易なことではないだろうとあきらめかけていたら、国家vsジャーナリストの構図に新しく就任した保健大臣が加わったとたん、作品の空気が一変した。執務室に撮影隊を入れ、自ら行政の腐敗をあぶりだしていく。市井の人々の怒りとともに、当時33歳の若き大臣がこの国の希望の星になるかと期待したのだけどねえ……そうは問屋がおろさない。
この国の選択には落胆してしまったけれど、ここがようやく闘いのスタートラインともいえる。無関心によってこの国がふたたび壊滅へと進むか否かは、この一連で戦った人たちの気概が、国民ひとりひとりの胸に熾火となって残るかどうかにかかっている。
そして、それはどの国にも言えること。

大臣の父親の息子を憂う気持ち、病院で息子を失った父親の悲しみ、どちらも子への思いが切ないラスト。
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