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コレクティブ 国家の嘘のmegurosのレビュー・感想・評価

コレクティブ 国家の嘘(2019年製作の映画)
4.5
冒頭から信じられない映像の連続だった。ブカレストのクラブ”コレクティブ”における火災発生時の様子は、クラブの撮影カメラだけでなく個人のスマホ映像によって映され、火の手が奔流のように迫ってくる恐ろしさを改めて知った。その時ステージではルーマニアのメタルコアバンドGoodbye to Gravityが”The Day We Die”という曲を歌い終わった所だったが、結局バンドメンバー4人のうち3人が命を落としたという。

生き残った人々が事件後病院で次々と亡くなっていくところから、製薬会社、病院経営者、政府関係者の癒着という巨大な闇に迫っていく展開となるが、それを追うのがスポーツ紙のジャーナリストという点が気にかかった。日本のようにマスメディアは政府統制下にあり、大手一般紙ではそのような動きができなかったのだろうか?

このドキュメンタリーが本当に凄いのは、辞職に追い込まれた内閣に代わって着任した正義感溢れる保険省新大臣に密着する後半パートがあるからだろう。どうしたらこんな許可取りができたのか?については劇場パンフにも記載があったが、今まで見たことがない(恐らくは今後も拝めないだろう)内閣大臣室の生々しい議論、さらには1人の力ではどうしようもなく変えられない腐敗のシステムを目撃できる。

新大臣が改革を行った6ヶ月。選挙が始まるわけだが、投票率が低いと保守政党が勝ってしまうという状況、保守政党は嘘を織り交ぜた耳障りの言いポピュリスト戦略を取ってくるというその状況は日本のそれと全く同じで、新大臣はあっけなく破れてしまう。しかも、保守政党の公約が医療関係者の税金を下げるということだったわけで絶望感がより深く、大臣の父は「この国はもうこの先30年ダメだ...」と嘆息するが、少なくとも政府関係者とメディアの間では公然と議論が行われていたことは指摘しておきたい。メディアに取材されればきっちり時間を取ってその質問に答えるということ、それは一見あたりまえのことにも思える。しかし、御用メディアが取り仕切る茶番の記者クラブ会見、質問に答えないはぐらかし会見にすっかり慣れてしまった我々の社会は、ルーマニアのそれより優れていると言えるのだろうか。
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