shiho

コレクティブ 国家の嘘のshihoのレビュー・感想・評価

コレクティブ 国家の嘘(2019年製作の映画)
4.1
【“人”の姿を見る映画】

ルーマニアのクラブ"コレクティブ"で起きた死者を多数出した火災事件。それを発端として大規模な企業と病院の癒着・政府をはじめとした組織的な腐敗を暴いた勇気あるジャーナリスト達と、国を少しでもよくしようとする新政府の大臣の姿を追ったドキュメンタリー作品。

私はたまたまニュースサイトでこの作品の紹介を読んで初めてこの事件を知った。海外ニュースというものはかなり選別されるので、自分はこの事件の報道を日本で見聞きした覚えはない。

観終わった素直な感想で言えば、エンタメ性は薄かった。映像や編集は洗練されていて過不足はなかったが、期待していた「最後に正義が勝つ」「悪者は一掃」的な分かりやすい気持ち良さはなく、むしろモヤモヤが増した部分もあった。正直情報だけ知りたいならネットから拾った方が詳細が分かるし、日本のドキュメンタリー番組の方が分かりやすくまとまっていると思う。ただ脚色や演出を加えず人物を撮った記録だった。

つまりこれは体験型の映像作品だ。情報を吸い上げるものではなく、”人“というものを見る映画。監督が信頼を得て、本当に彼らのすく側で撮られているからフィクション?と見間違うほどだった。

この世には私腹を肥やすためならなんの罪もない人が多少死んでも別にいい、その家族が泣き暮らしたって知らん顔という金持ちが数多いるということ。政府は表層を撫でるだけで問題に斬り込まず、まったくの役立たずということもあるということ。マスコミがツッコミを入れ民衆が疑問を持ち行動しないと、一部の人間のやりたい放題になり何も知らない民は理由も分からずないがしろにされ続けるということ。

人というのは、善悪でハッキリ分けられるものではないかもしれない。社会や時代や視点が変われば評価基準も変わるからだ。こういういわゆる社会の闇を直視する度に私の中にあった性善説は崩れていき、今は「人は善悪どちらも持ち得るしどちらにも転ぶ」と思っている。そんな中で、正しい行いをしようとする人の姿を見ることで「人も捨てたもんじゃない」と思えた部分もあった。これはフィクションからは得がたい大きな収穫だ。

ここまで衛生状態が壊滅的に悪い…とか日本の病院ではないんじゃないかなと思いたいけど、汚職はそこら中にあるという学びにもなったし、世の中はそんな簡単には変わらないという戒めにもなった。この世は弱肉強食だ、間違いない。ただ、結果として敗北しても確かにその時その人を救う行為は計り知れなく尊いものであり、私達一人一人がそうあろうとすれば世界はちょっとだけ良くなると信じたい。それを忘れては頭のいい獣と変わらないだろう。
shiho

shiho