しの

アシスタントのしののレビュー・感想・評価

アシスタント(2019年製作の映画)
3.9
キツいけど素晴らしい。アシスタントが朝早く出勤するシーンから始まり、夜遅く帰宅するまででコンパクトにまとまっているが、そこで男性社会の職場に蔓延するナチュラルに見下し虐げてくる空気感を延々と体感させ、そしてクライマックスには……。この持っていき方が非常にこたえた。

誰も主人公のことをあからさまに攻撃したりしないし、なんなら勤勉だとすら思っていそうなのに、同時に誰も彼女を正面から見ていない、というか人格ある人間が存在しているとすら思ってないんじゃないかというこの感じ、この会社のアシスタントにしか当てはまらない話では絶対ないだろう。例えば、基本的に誰も彼女の方を見て話さない。部屋から出ていこうとしても退こうとしない。エレベーターのボタンは勝手に押されるものだと思っている。ちゃんとした頼み方もしなければ、ありがとうの一言も言わない。人間扱いされていない。

実は男性に限らず、女性も使い終わった食器を放置したりしている。終盤にエレベーターで「意外と大丈夫だよ」みたいなことを言ってくる女性含め、何とか体制側に取り込まれないとやっていけないのだろうなということは容易に想像がつく。例の食器の女性も、彼女は彼女でどうサバイブするかで精一杯なのだろう。それがまた間接的な加害を生み出しているのだ。

こうして正面から向き合って話してすらくれない職場の日常を延々と体験させつつ、終盤の展開に繋がる「裏で何かが進行している」違和感をしっかり入れ込んでいる。自分は序盤からずっとああ……と思いながら観ていたが、人によってはちょっとしたミステリーのようにも見えてしまうのではないか。

からのあのクライマックスの何が効果的って、ようやく「正面から向き合って話してくれる」人が画面に登場したのに、その実態は……という当事者目線の絶望感がガツンとくる構成になっていること。しかも主人公は直接の被害者ではないぶん、観客との同期性もあり、なおのことしんどい。

本作も『SHE SAID』と同様に親玉の顔を画面上に登場させず、加害の場も見せない。皆が悪行を「この業界はそういうもの」というシステムとして黙認し、何なら笑いのネタにする、その空気感で事の重さを伝えてくる。そしてこれからも1週間は続いていく。本作の方が体験としては強固かもしれない。
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