Jun潤

アシスタントのJun潤のレビュー・感想・評価

アシスタント(2019年製作の映画)
3.5
2023.07.06

(おそらく)ポスターを見て気になった作品。
映画業界に夢を見た女性が直面する現実を描く、負の側面からの映画作りモノ。
僕が日々楽しんでいる映画制作の現場はどのようなものなのか、全ての現場がそうでないことを祈りつつ、良い面だけを見るのではなく悪い面も見なくては。

まだ日も登っていない頃、誰よりも早く出社する女性・ジェーン。
プロデューサーを夢見て映画に関わる企業でアシスタントとして働いているものの、業務内容は映画とは程遠く、資料の準備や出張の手配、掃除、来客の案内に荷物の受け取りなどなど、雑務ばかり。
同じ会社の人たちもジェーンのことはいないものとして扱い、自分は関わっていない業務について同僚から愚痴をこぼされる始末。
それでもジェーンは業務を遂行していくが、会社に訪れた1人の女性への対応に対して疑問を抱き、告発しようと動く……。
膨大な数の実話を基に、ジェーンの1日の様子を追っていく。

これは久しぶりに胃がキリキリする作品でしたわ……。
作中の特に印象的な描写からはフェミニズムなどのメッセージ性を感じますが、会社に入りたて、仕事を覚え始めて間もない頃を経験したことのある全ての人の胃に穴を開けに来る作品だったと思います。

個人的な経験から考えると、日本の企業の場合は最初望んだ通りの仕事ができなかったとしても、態度で示したりゴマを擦ったり、年功序列で年数さえ経ればある程度の仕事ができたりなどがあるのかもしれません。
しかし、アメリカの場合は実力主義が強めなイメージなので、今作のジェーンのように、どれだけ日々の業務を懸命に遂行していても、将来の成果に直結するような実績を積む機会に恵まれない環境というのは、本当に辛いのではないかと感じました。
それにジェーンの同僚たちは彼女をいないもののように扱っているのに、彼女がいなければ会議室は綺麗にならないだろうし、使用済みの食器は溜まっていく一方だろうし、代わりはいくらでもいるのだからもっと良い職場を見つければ良いのにとは、簡単に言えないような苦々しい感じがしました。

ストーリー的にはジェーンの1日の仕事の流れがほとんどを占めていて、少しセクハラ問題に対しての行動もありますが、ほぼほぼ起伏はないような感じ。
しかしジェーンの仕事の裏側ではうっすらと映画関連の仕事が進んでいることが伝わってくるので、同じ空間にいながら、憧れた夢のすぐ側にいながら、関わることができない苦悩や、華々しい世界を想像していたはずなのに、今の自分がしている地味で側から見れば大したことのない作業を繰り返しているだけの現状にギャップを感じていることがビシビシ伝わってきて、ジェーンと同じ頃なんてとっくに過去のことなのに一瞬であの頃に気持ちを引き戻されたような感じがして、作品的には良い意味で気持ち悪くなりました。

望んだ業界にいてもやりたい仕事ができず、周りには誰も味方がおらず、プライベートなんてあってないようなもののように忙殺されていく様子を、BGMもなく実話を基にしたリアリティ満載な作品を通して観ると、仕事ってなんだろうとか、なんで仕事するんだろうとか、常々考えるべきなんだろうけどより一層考えたくなくなりますね。
Jun潤

Jun潤