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アシスタントのumisodachiのレビュー・感想・評価

アシスタント(2019年製作の映画)
3.7



映画プロデューサーに憧れ、勢いのある映画プロダクションのアシスタントとして働き始めたジェーンの1日を淡々と映し出した作品。

まだ暗い早朝に誰よりも早く出勤し、ボスのオフィスを片付ける。床には女物のアクセサリーが落ちているので引き出しにそっとしまう。最新の興行収入をプリントアウトして皆のデスクに置いていると、ポツポツと他の人たちも出勤してくる。ボスのスケジュールは刻一刻と変化するので、突然今夜の出張が決まる。急いで飛行機やハイヤーの手配。雑務は次から次へと降ってくるので片っ端から処理していく。見知らぬ女の子がやってきて、「今日から働くことになっている」と言い、彼女のために用意されているという高級ホテルに送っていき、すぐにオフィスに戻る。ボスの奥さんからクレームの電話が入り、何とか対応するとボスから直電で罵倒される……。

こんな感じでめまぐるしく過ぎていく1日をただ追った作品。しかし、もちろんそれだけではない。昨今の#MeToo の流れとワインスタイン事件を背景に、「ただの1日」の向こうに広がる搾取と女性蔑視の構造をグロテスクに描いていく。

肝は、ジェーン自身は被害に遭わないこと。直接的な描写は何もないのに、ジェーンの心は削られていく。すぐそこで確実に展開されている女性蔑視と性的搾取の現場。それを周知の事実としてごまかしていく社員たち。そのことを訴えてみれば、「君はボスの好みのタイプじゃないから大丈夫」と言われる始末。つらい、つらい、つらい。

なぜこんなにつらいかというと、本作で描かれていたすべては私が知っているものだったから。セクハラを受けている女性を気遣う発言をすると、「お前は絶対安心なんだから気にするな」とか「そうやって嫉妬しちゃってー」と言われるあの感じ。理不尽な罵倒にも耐えろと言われるあの感じ。スクリーンいっぱいに最初から最後まで漂う、私が知っている「あの感じ」が記憶をチクチクチクチクと掘り起こしていく。掘り起こされてしまった数々の記憶のせいで、駅までの帰り道は涙が止まらなかった。

明かなセクハラはわかりやすい。でも、問題はそれだけではない。いったい何が心を削っているのかを、どんな風に心は削られていくのかを、本作は異様なリアリティで描写している。美人だろうがブスだろうが、チヤホヤされようが雑に扱われようが、とにかく常に値踏みされている不快さ。おそらく男性やこういう経験がない女性には想像がしにくい感情だと思うのだが、本作を観れば多少なりともわかると思う。
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