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ブニュエルと亀甲のラビリンスのニューランドのレビュー・感想・評価

3.3
☑️『ブニュエルと亀甲のラビリンス』及び『ウルフウォーカー』▶️▶️
今回の催しのアニメの中では、際立って格落ち(後の2本が凄すぎるのだが)の作かなと捉えていたが、ブニュエル人気絶調で本人も存命、名実共に欧州3大巨匠の一角を占めてた’70年代(『糧なき土地』の本邦初ロードショーも’77で、『自由の幻想』と二本立てで、当時のファンの多くは、年間ベストテンの枠は10本しかないので、どちらかを代表させて必ず入れていたと思う。同じく2本が対象のルノワールやファスビンダーと同じように~人によってはヴェンダース3本、デ·パルマ2本の方から引っ張ったか)に同じく映画少年だった知人が真っ先にチケットを買ったのにつられ、私も先月末に早々とゲットした。『糧なき土地』の前の『黄金時代』は、10年くらい前に友人とやった仏映画史上のベストテンに迷わず入れたが、その辺の創作秘話として大風呂敷を拡げたものを予想してた。
しかし、いざ本編を観て、気張らず自分らと変わらない何処にでもいる30才の青年の、等身大の姿、原則·理想より信念·行動力を、回りには傍迷惑、文壇·画壇の気鋭に対しては虚勢も恐れず形を整えてく姿勢が、決してスキャンダラスではなく、あり得る好感·存在感を持って描かれる。宝くじ当たりを投入、題材提供·カメラマンとして駆け付ける、友人らも唖然の、ドキュメンタリーにあるまじきやらせを迷わず選択、最後進地域の救済意識も脇に置いて、とにかくシュートに突き進む憎めない、青年らしいブニュエル。「真実の現実」描写には手段選ばずの筆力、ダリを気にしてないようで何処かにコンプレックス、幼年期の記憶や夢の中等の父母から解放されぬもの、らがメリハリあるアニメの特性からはあり得ないような、感性の細やかなカッティング·飾りのない正確平静な図で描かれてゆき、共通する我々の中の何かに通じてく。終盤、救済の社会意識や、記録の本道立ち戻り意識生まれは、実際はともかく作品魔力としてはちと残念、もっと人間的悪意もある確信犯であり続けて欲しかった。しかし、ノンクレジットの仕事はあるにしても、再び名前打ち出しの仕事復帰までの、10数年を続篇として作ってほしいもの。
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『ウルフウオーカー』。改めて、傑作と言わざるを得ない。作年末の、初見時には、これまで単純な線·イメージのまろやかさ·可能性のトーンに対して、この作家にしては線の書き込みが、ゴチャゴチャ多すぎてユニークから、一般的説得力に傾いてる所があるのでは? と、少しだけ懸念があったのだが、見直すと余分な描き込みはなく、全てのトーンが、必要な考え決められきったもので、力の相克·対照が見事に方向付けられ、高められてて、この作家のいまのところのピークを感じた。前回3.9で採点したが、4.0に上げたい(まぁ見直すと、みのがした細部からの厚みが見えてきて、だいたい0.1評点は上がるものだが)。
イギリス国教会成立後暫くの話で、ロンドンから来て治めている、極めて神に敬虔な、神の威光による支配を必定とする、森の自然も強引開拓·人間独占利用の物に、護国卿とかいうのは、姿勢的に旧教より純な、近代資本主義のバックボーンとなったプロテスタントの様にも見え、森の狼らの領域を重んじ相互不可侵を永く続けてきた、アイルランドのこの地の市民らとの乖離。彼らは純カトリックなのか、或いはキリスト教以前土俗宗教なのか。森を守り、森の狼たちをリードし、夜の時間には彼らを精霊化もさせてる、睡眠に入ると霊魂が離脱し·狼となる、意識と無意識·現実と超現実を跨ぐ、神の子的な、しかし救世主として、世界を目覚めさせるのではなく、知性に汚れない始原·活力·優しさに戻すようなウルフウォーカー。 善悪や、勝敗や、勃興と滅亡が、確定されていくのではない。全ては微睡み、方向を定めず渦巻き続け、各々が自分を全うし、他者との境を打ち消し·全ての差異を無価値なものにしていくのだ。その表現としてのアニメート。
確かに以前に比べ、強い筆致の線の分量が多く、それらは現実の闘いに近づくのではなく、既存の体制と内なる魂、直線と曲線、2つの世界の併存から生じる。表面的には受け止められる、支配と抑圧の逆転を超えた、互いの力量と美を際立てる為に、働き続けてる、そして映画作品としてかたが着いても、内的世界観は動き続け、それは都度起点を更新し続ける。城壁に囲まれ、石で組立てられた都市部は、直線や垂直のブロックが厳然と恥ずべきがないごとく組合わさり、ゴチャゴチャしても不動を示しつづけ、赤い焔群の生まれ·拡がりや、やはり赤め陽光染め、捕獲や妥当に向かう戦士や武器らの動きもそうだ。ブロック自体各々で違う存在の同じ硬度と重力を持ち、増殖。それに反し、森の奇怪伸びうねる樹木の形や、超能力を発する個人うちからのブラズマ的白いエネルギー、森を襲う火事、魅力的に自然災害も謳歌的に続ける、曲線の動的世界(の一部。半分)。どこまでも妖しく、どこまでも可能性に結び付く。威容や確度には向かわない、しかし独自に力強いあり方。亡びに向かう旧さなのか、全く新しいものの産み落としなのか、も線が引けない。
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