持て余す

RUN/ランの持て余すのネタバレレビュー・内容・結末

RUN/ラン(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

『search』の監督だって認識しないまま見たのだけど、結びつくと「ああ、なるほど」ってなった。

『search』はモニター越しに展開する物語という点が特異だったけど、ドメスティックな関係性とそこにある秘密、それが元で起こる事件や犯人の異常性、そしてその解明と解決を描いた物語という点で、この『RUN』とは構造がよく似ている。

全編モニター越しってわけじゃないからとても見やすい。

殊更に丁寧な説明はなくて、まずは母親──ダイアンと障害を持った娘──クロエのふたりが仲良く暮らしている様子が描かれる。クロエは障害を抱えながらもとても聡明で、前向きに生きているし、ダイアンはそんな娘を大切にしているのがよく判る。

そんな仲良し母娘の様子を見るだけでも構わないのだけど、当然濁る。そもそもこのふたりの関係はダイアンの努力や配慮で成り立っているところもあるけれど、なにもしないで普通の暮らしをしていれば却って秘密が露見することはなかったかもしれない。

自分の母親がダイアンのしたようなことをしていたとしても、知りようがないと思う。たまたまDNAを調べるとか、血液型を調べるとか、なにか証拠の書類を読んでしまうとか、そうした可能性の低い偶然がなければ疑うことすらしないのではないかと思う。

ただ、ダイアンは自分が新生児を誘拐した事実を知っているから、過剰な嘘で糊塗してしまう。あの人里離れた不自然な環境を設えたのはこうした情緒があればこそだし、それは自然な行動に思える。

ただ、露見の発端となった薬のラベルのところはやや勿体ないように思えた。クロエは受験して巣立とうとしている最中で、ダイアンはこれを防ごうとしている渦中にも関わらず、すべてを台無しにするようなうっかりミスをするのは、物語の展開のためになってしまう。

時期的には受験にも失敗し(たことにして)てからしばらく落ち込んでいたくらいの時期でも良かったように感じる。であれば、ひとやま越えたと思ったダイアンのミスということに言い訳もたつ。

まあ、瑣末なことだけれども。

皮肉なことにダイアンの子育てはとても成功していて、クロエは意志が強く、努力家で、利発で機転も利く。ダイアンは小さなクロエを甘やかすだけ甘やかしたりして、自堕落で頭の鈍い人間に育てていれば、意のままに親子関係を続けることだってできたのに、自分が良い母親であることを優先した結果、破綻したわけだ。

この辺りの生々しさはとてもいい。

終盤はやや普通のサスペンスになった感はあったけど、クロエ役のキーラ・アレンの好演もあって、大満足でした。このキーラ・アレンは実際に車椅子生活をしている俳優だそうで、それも驚いた。昨今のハリウッドに吹き荒れる配役への過剰な配慮は納得いってないけど、こういう結果も生む(この配役に配慮が関係しているかは知らないけど)のなら、悪くないとも思う。
持て余す

持て余す