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精神0のmidoredのレビュー・感想・評価

精神0(2020年製作の映画)
4.0
引退を決めた精神科医と認知症の妻の姿を淡々と映すドキュメンタリーであり、老夫婦の物語でもありました。『精神』を見たのが大分前なので、ほぼ真っさらな気持ちで鑑賞しました。

夫による妻の老老介護なので、『ぼけますから、よろしくお願いします』と状況は似ていますが、映し取るスタンスが違っています。入り込まず、遠ざかりすぎず、山本医師を中心とした世界を、できる限りそのままの姿で映そうとしているように感じました。

だから、患者さんも、猫も、子供たちも、奥さんのお友達も、昭和で時間が止まったような古い診療所も、寿司桶も、認知症が進んでいる奥さんも、歳をとった山本先生も、お墓も、おはぎも、撮影クルーすら分け隔てなく存在していて、当たり前なのに不思議でした。

これがゼロの精神なのでしょうか。それとも、精神病患者との共生をテーマにしてきた山本先生の存在がなせる技なんでしょうか。想田監督がヴィパッサナー瞑想の本を書いてらしたのも関係ありそうな気がしました。

ラストの後ろ姿が2人のこれまでを語るようでした。すべて忘れてしまうとしても、共に生きた時間は無くならず、繋いだ手としてそこにある。かつて奥さんが語ったよう、本当に、穏やかな海のような関係性だなと思います。

メガネの曇った患者さんと山本先生のやりとりも地味に心に残りました。筋の通った話し方はできなくとも、人間としての気持ちは伝えられるもんなんだなと思いますし、それを受け止められる先生のすごさも感じます。

とにかく、手ブレで酔わなければ、もっと文句なしの作品でした。
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