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魔の階段のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

魔の階段(1964年製作の映画)
4.0
[彼らは三度転落する] 80点

傑作。題名通りの階段映画。なので同時代に撮られた『下女』とはよく比較されるらしい。病院の外科課長ヒョン・グァンホは看護婦ジンスクと逢瀬を続けながらも、出世のために院長の娘ジョンジャとの結婚を決める。すると途端にジンスクが邪魔になったので池に沈めて殺したが、彼女の幻影に苦しめられて云々。ヒョン課長、ジンスク、ジョンジャはそれぞれ物語が後戻りできなくなるタイミングで階段から落ち、各人の中で何かが崩壊する。病院の中にも階段はあるんだが、裏口にもほぼ梯子みたいな階段があり、あからさまな高低差は撮りやすいコチラで導入される。ジンスクを池に沈める場面では、当直の目をやりすごしながら病室で眠るジンスクを抱えて外に出る必要があって、裏口の梯子みたいな階段を使うんだが、少し前に何気なく落された暗示的な松葉杖の落下が緊張感の導入に変貌するのが上手い。続く展開は『悪魔のような女』を思い出すような神経衰弱譚に移行するが、こちらも音や風などで恐怖を煽りつつ、ジンスクを幻視させて精神を削っていく。

本作品はその完成度の高さから、公開当時より海外作品と比較され、本当にオリジナルなのかと疑われるほどの評価を得た。しかし、意外にもイ・マニが配布した脚本は、ジョンジャが転落する終盤10分手前までで終わっているらしく、その後の展開は現場で伝えたらしい。

★以下、結末のネタバレを含む








序盤のジンスクの転落とラストのヒョン課長の転落は明白に対比構造となっていて、それは"私も殺人未遂ですね"というジンスクの言葉からも分かる。しかし、双方が殺人未遂だという事実は同じでも、ジンスクの転落が家父長制を守るためのものだとすれば、ヒョン課長の転落はそれに対する女性たちの復讐であり、両者は明白に異なる。ここも『下女』と同じテーマを扱っている。
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