空海花

ビバリウムの空海花のレビュー・感想・評価

ビバリウム(2019年製作の映画)
3.8
第72 回カンヌ国際映画祭批評家週間で、
新しいクリエイターを奨励するギャン・ファンデーション賞に輝いたスリラー。
監督は新鋭ロルカン・フィネガン。
ベルギー=デンマーク=アイルランド合作。
レイティング R15
撮影はアイルランドで行われたとのこと。

若いカップルが不動産屋に紹介された住宅地を訪れたところ、住宅地から抜け出せなくなった上に、素性の知れない子を育てる羽目になってしまう─

ジワジワと心を締め上げてくるような
不条理なSFスリラー。
攻撃的なホラーやスリラーに見慣れた昨今
ある意味で感じる清涼な風のような作品。
と、言っておきながら、内容に清々しさは微塵もないのでご注意を。

連綿とグリーン調の映像が続いていく。
主人公たちや背景だけではなく
最初に出て来る女の子のニットまで薄いアイスグリーン。
本来、グリーンは自然の色の筈なのに
抜け出せない住宅地に入ると、
無機的な青緑色の世界。
エメラルドグリーンというかティールグリーンというか
ティールならば和名は鴨の羽色。
この物語の導入はカッコウの“托卵”
ストーリーが示唆される不思議な始まり。
仲睦まじく付いていく鴨の親子と
カッコウのそれはまるで真逆だ。

空や雲はシュールレアリスムの
マルグリットの絵画のようで
(監督がイメージしたらしい)
TVから流れるフラクタル図形のような映像は、
シュールレアリスムのもう一方、「自動記述」から発展していく抽象的絵画に思い至り、アーティスティックな映像への説得力を感じる。
ブラックユーモアたっぷりのシュールな内容とのマッチング感。
グリーンという色は“スペース”という意味も象徴する。いい意味でも悪い意味でも。
プーツが子供に、雲の形が何かに見えると話す場面があるが、
きっとそれはないだろう。

湧いて出て来る疑問への表し方が絶妙。
前述の映像との相乗効果で、
イマジネーションを膨らませる設計。
気付く度にゾワゾワしていく流れも良い。

かわいくない子供
無味無臭の食事
画一化された住宅街
その不気味さが際立つのは
身も心も削られていくような
イモージェン・プーツとジェシー・アイゼンバーグの演技が良いからだ。
好感度の高いカップルがこんなにも…
2人も製作に名前を連ねている。

その世界は現代社会の迷路のように
逃げ場がない。
ルーティンの繰り返し、無個性に陥るほど、つまらないことはない。
マイホームの夢が悪夢になりませんように。


以外ネタバレ含む感想⚠️


ビバリウムは viva(生命)+arium
生き物を育てるための環境を再現した空間。
現在は爬虫類や両生類の住む環境を再現したケージをそう呼ぶことが殆どだそう。
そこに用意された“準自然環境”とは…
しっかり噛みしめてゾクゾクしてほしい。
そして食事はおいしく食べましょう(笑)

最初に見たダンボールの赤ちゃんのお腹
ヌメヌメしてて…
最初のマーティンのヨボヨボ感は干からびた感じ。何かニヤリとしてしまった😏

謎の町「ヨンダーYonder」は「向こうの、あそこの」の意。
近くではないが遠くもない距離。
クライマックスでは赤や青の世界が現れる。この怒濤の展開も良かった!
ここに距離という概念はないかもしれないが
その距離感にもゾッとする。

監督談では勅使河原宏『砂の女』に影響を受けているそう。🤔


2021レビュー#151
2021鑑賞No.331
空海花

空海花