Nana

ビバリウムのNanaのレビュー・感想・評価

ビバリウム(2019年製作の映画)
3.8
終始不気味だが、あの綺麗な水色の家、そしてシンメトリーすぎる住宅街のせいか、シンプルにまとまった印象。

マイホームを夢見るカップル、トムとジェマ。

2人は、とくに計画している訳でもないが、ふらっと不動産屋さんに立ち入る。

押し売りのように、ヨンダーという住宅街に案内される2人。

そこは、水色を基調とした、全く同じ家がずらっと立ち並んでいる。

案内された一室に立ち入る3人。

トムとジェマがああだこーだ言いながら内覧をしていると、いつの間にか不動産屋のマーティンはいなくなる。

2人は呆れ、帰ろうと車を走らせるが、出口にたどり着くことはなかった。

屋根に登るトム、見えるのは、まるでゲームのような、この住宅街とCGのような空だけだった。

太陽を目指そうと歩いたが、出口はなかった。

日用品や食料は、ダンボールで毎日届けられる。
まるで、空から降ってきたかのように、誰もいないのにダンボールは必ずあるのだ。

トムは家を燃やした。

翌朝、家は綺麗に元通りではないか。

家の前にはダンボール。
中には生後1ヶ月だろうか、男の赤ちゃん。

"赤ちゃんを育てれば解放する"などの文字も。

2人は、育てたくもないだろうが、共存するしかなく・・・

赤ちゃんはどんどん成長した。

小学校くらいになった。

毎日奇声を発する子供、痴話喧嘩をまるでロボットのように復唱。

2人は気が狂い、精神がおかしくなった。

トムは子供を殺そうと、何も与えずに車に閉じ込めたが、ジェムは子供を助ける。

トムは、庭に穴を掘り始めた。
毎日毎晩掘り続けた。

ジェマは時折母親らしく子供に接したが、奇声をあげたり、かえるや爬虫類のように進化しそうな姿を見て、やはり異常だと確信したのだろう。

子供も成人した。

穴がかなり深くなった時、そこにはミイラ化した遺体が土に覆われていた。

必死に這い上がりジェマを呼ぶトム。

ジェマはトムに走りより、死にそうなトムの最期の言葉を訊く。

トムが息絶えると、遺体を入れる袋を投げ捨てる子供。

声も出ないくらいに泣きわめくジェマを横目に、あっさりと遺体を袋に入れ、トムが掘った穴に投げ捨てる。

ジェマは子供を殺そうと斧を持ち追いかけるが、不思議な穴に入り、幻覚を見る。

今までの住人の、苦痛な叫び。
無惨な死体。

ジェマもようやく死を迎える。

トムのように袋に入れられるジェマ。

『家が欲しかった。それだけなのに。私はあなたのママじゃない』と言い残すジェマ。

「あっそ」と袋を閉める子供。

子供は遺体を捨て、あの不動産屋へ。

年老いた案内人。
トムとジェマを案内したマーティンだ。

彼は死んだ。

彼を遺体袋に入れ、彼のバッジを胸につけ、椅子にすわる子供。


・・・

なるほど。
そういうサイクルだったのか。

監督のインタビュー記事を見て、現実でマイホームを買ってから揉めた夫婦もこんな感じなのかも、と思いながら観ていた。

トムが穴を掘る姿は、ローン返済地獄の誇張のようだという風にインタビューで語られた監督。

確かにな~と。

トムの台詞が一句、深かった。
『君がいてくれればそこが"家"なんだ』

それとは対照的だったジェマの、
『家が欲しかっただけなのに』

なかなか深かった。
Nana

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