QTaka

宇宙でいちばんあかるい屋根のQTakaのレビュー・感想・評価

3.5
桃井かおりさんの妖怪っぷりと、清原果耶さんの天使のような爽やかさ。
藤井道人監督の描くファンタジーは、日常のちょっと先の出来事なのかな。
.
それは、日常の中で感じているちょっとした思いを包む優しい物語。
少女の抱える辛さは、あるいはよくある現実になりつつあるのかもしれない。
老女の抱える希望も、現代の問題の一つかもしれない。
ほかにもいくつもの現実が重層的に表現されている。
この社会は、ますます複雑に、渾沌としつつある。
そして、生き辛さだけが増して行く。
それらを背負った二人が出会うところから始まる。
.
映画には、いくつもの美しいシーンが有る。
書道教室のビルの屋上。
この映画の始まりであり、メインステージでもある。
光が漏れる三角の屋根で、その光に照らされて、少女と老女の交流が始まる。
二人、それぞれに悩み、あるいは希望を持っている。
そんな二人の夜の屋上での会話が物語のベースになって進む。
ビジュアル的にこれ以上ない美しい場面は、水族館のクラゲの水槽の前のシーン。
この世とも思えないような光の演出は、本当に魅了された。
あの美しさは、この映画のクライマックスかもしれない。
そんな美しい場面が、二人の魅力を引き出していた。
.
この物語を、少女の物語と見るのが普通だろう。
これからを生きようとする少女の小さな躓きに、その背中を押してくれる老女。
大きく、力強く、若者を支え、応援してくれる、心強い大人像をそこに見る。
でも、ちょっと視点を老女に移すと、老いと死の姿も描いている事に気付く。
”老いのファンタジー”とでも言うのだろうか。
歳を経る事、死に向かう事の有るべき姿を描いているようにも思える。
「有るべき老いの姿」というより、「別れの時に、こんなエピソードはいかが」というカタログ的な物を感じた。
老いを感じ、死を感じた時に、逢いたい人がいて、様々な困難を経て、夢がかなった時…
この物語の展開は、幾つかの物語で見られる。
そこに、”家族”というキーワードが見える。
それは、失った幸せを示しており、最期を迎えるに当たって、その幸せを取り戻す事を求めている。
ちょっと、ひねくれた事を言うと、このストーリーは、現実と比べてどうなのだろう。
家族の姿に幸せを見たり、夢を描く事が、だんだん現実では無くなりつつあるように思う。
少子高齢化と未婚率の増加、独居老人の増加と格差社会の進行。
老いの現実は、家族と共に有るのだろうか。
そこに、遭いたい人の姿は有るのだろうか。
そもそも、逢いたい誰かはいるのだろうか。
だからこそ、この”老い”の物語は、”ファンタジー”になるのだろう。
現実は、どこに向かっているのだろうか。
ファンタジーを楽しめない現実が恨めしい。
.
桃井かおりさんと言えば、昨年は”のんさん”の監督した映画に出ておられた。
こちらは、メイキングもいっぱい見られたので、桃井さんの姿もいっぱい見られた。
桃井さんは、自身でも映画制作をされる俳優なので、多くの経験値も含めて映画への取り組みも興味深い。
そんな存在が、若い俳優を前にした時にどんな化学変化を起こすのか、楽しみでならない。
この映画でも、清原果耶さんと演じた桃井さんの姿に力強さと、妖艶さと、さらになんだか分からないパワーを感じた。
実際に共演された清原さんはどうであったのだろう?
とにかく、キャストに”桃井かおり”を見つけただけで、この映画を見る事に決めた。
そして、間違いなかった。
.
もう一人魅力を隠せないのが、藤井道人監督だろう。
昨年の『新聞記者』には、すっかり魅了されてしまった。
その前の『青の帰り道』からは創造できない切れ味だったからね。
次はどんな映画を撮られるのだろうと思っていたら、この映画だった。
キャストも含めて、これは見てみるしかなかろうと思った。
期待を上回る魅力いっぱいの映画だった。
まだまだ見たい監督だ。
QTaka

QTaka