空海花

ベルリン・アレクサンダープラッツの空海花のレビュー・感想・評価

4.3
1920年代に出版された現代ドイツ文学の傑作
アルフレート・デブリーンの小説
『ベルリン・アレクサンダー広場』
新鋭ブルハン・クルバニ監督が
現代版に再構築し映画化。
ベルリン国際映画祭正式出品、ドイツ映画賞作品賞ほか5部門受賞。
世界各国の映画祭で絶賛された話題作。
日本ではドイツ映画祭 HORIZONTE 2021が延期し、オンライン上映中。
原作は1980年にTV映画化されている。

愛・金・裏切りに翻弄されるギャングたちの寓話。
ドイツの貧困・人種・難民の問題をリアルに映し出す。

スタイリッシュな映像が目に飛び込む。
赤い水、ラベンダー色の海と空、紫やピンクに当たる緑がかったネオンのような光。
挑戦的なカメラアングル
トランスしそうな劇伴。
音楽はダーシャ・ダウエンハウアー
若手の女性映画音楽作曲家。
ウィスパーボイスを含むナレーション。
不穏な呼気が、感情を逆撫でる。

主人公フランシスはギニア出身の不法移民。
船は嵐に遭遇するが、願いは叶い、
彼は無事ドイツへ流れ着いた。
遭難する中、これでもし助かるのなら
今度こそ「善人になる」と彼は誓いを立てていた。

不法移民としての生活は過酷で
どれだけ働いても貧困と粗悪な環境から抜け出せない。
麻薬密売人のラインホルトが近づき
彼は抵抗しようとするが─

この2人の絡み合いが何とも言い難い強い印象の作品。
補うようで、突き放すようで。
疎ましいようで求めているようで。
ラインホルトは悪の象徴のようなもの。
神経質で、非道で、よく喋り
変なポーズをする。
2人はやたらモテる?ので
セックスシーン多め。

「ベッドとバターパンだけでいいのか?」
人生は決してそれだけではないと私たちは考えるが、
そのために心血注がなければならないことがあるのも知っている。
だが、フランシスは人生に寝食以上のものをおそらくずっと求め続けていた。
魂に刻まれているように
彼には人を惹きつける魅力がある。
不思議な包容力と優しさも。
だから手を差し伸べる人はいて
どれだけ躓いても、何とか助かるのだが…
そんな中、彼は娼婦であるミーチェと出会う。
愛とは。罪は洗い流せるのか。罰とは。
彼は今度こそ運命を変えようとする。

牛とネオン色の十字架がフラッシュバックするように立ち現れる。
TVに映る、普通の人々の幸せ。
草、日、夜、黒、肌…
復唱される単語の数々。
象徴の表現は多い。
5部構成の中で徐々に転じていく。

ダークな映像美、独特な造形のアイテムもあり、表現主義的でもあるが、
社会や人の闇にはリアリティも強くある。
文学的な匂い、キリスト教的な言葉、
180分を超える長さ、内容の重さ
観る人を尻込みさせるような要素は多いかもしれないが、見応えはある。
何より俳優たちの魅力がすばらしい。
最終章では彼、彼女らに、心の中で言葉を投げかけずにはいられなかった。

根付くため、築くために彼らはここにやってきた。
ジャーマン・ドリームだ。
不毛な土地、不毛な精神を切り拓かなければならない。

ドイツには太陽が少なく、闇が強い。
これは本当によく思う。

彼がこうなるのは
誓いを立てたからかもしれないと思った。


2021レビュー#102
2021鑑賞No.191


監督はアフガニスタン難民の子供として
ドイツに生まれた。
原作も、超長編の最初の映画もぜひ観てみたい。
空海花

空海花