脳内金魚

ストリートダンサーの脳内金魚のネタバレレビュー・内容・結末

ストリートダンサー(2020年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

文句無しに楽しめる作品。見に行ってよかった!し、物語としてもとても奥深く、何十にも楽しめる作品だった。

ラストに実話(に着想を得た?)と言う種明かしが来るのが、先入観なく見られていい演出だった。多分、冒頭には「動物は傷つけてません」くらいの注釈しか為ったはず!

胸熱ダンスバトルかと思いきや、思わぬ社会問題を絡めた意外な展開…と思っていたが、いや〜あらすじ最初の三行くらいしか読んでなかったのだけど、イナーヤトが大会で優勝目指す理由書いてたね。

インド映画の、エンタメ性も捨てず、且つしっかり社会問題も絡めるこの上手さは感心する。(それにしても、インドとパキスタンの対立を描くのは、この両国では鉄板なのだろうか?)

ダンスシーンは、プロが入っていたり、監督自体も高名なコリオグラファーらしいので、言わずもがな。なにより、出演俳優の圧巻のダンスシーンは、ブレイクダンスに興味がなくても惹きこまれてしまう。奇しくも、今年のパリ五輪からブレイキン(ブレイクダンス)が正式種目に採用されることもあるのに、上映館数が少ないのが残念。

個人的にはロイヤルズのリーダーが、相手の足を引っ張って勝つことを良しとしない人なのがよかった。今作は基本的に鼻持ちならない人物はいても、基本的に悪人はいないので、その点も楽しんで見ることが出来る。

あと、決勝シーンで、テクノミュージックだけでなく、ちゃんとインド音楽も取り入れていて、伝統と新しいものがうまく融合していて、そこもすごくよかった。

『ニューヨーク・オールド・アパートメント』でもそうだが、違法移民自体は肯定できるものではない。劇中のサヘージやイナーヤトたちもきちんと市民権を持っているからこそ、英国での生活が保障されているのだから。だから、彼が罪悪感を持つ必要は本来はない。けれど、なぜ違法行為と分かっていてもするのか。きちんとその背景を理解しなければ、根本的な解決には至らない。また、「無知」と「知ろうとしないこと」は似て非なるものだ。イナーヤトやサヘージは、そのことに気づいたからこそ、行動を起こしたのだ。挿入歌の歌詞で「黙っている 無実の罪に耐えられない」と言うのがあったが、これはそういうことを示しているのかな、と思った。

わたしは、この「無知」と「知ろうとしないこと」の違いや、生まれ持った恵まれた環境にいることに罪悪感を抱くべきか、と言う問題に接する度に、平成31年の上野千鶴子氏の東大の祝辞を思い出す。この映画と、この祝辞を読んだとき、あなたは何を思うだろうか。

https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/b_message31_03.html
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