「とりあえず目指してみます」
小寺さんはまっすぐな瞳で先生にそう言って、進路希望表を突き返した。
何かに夢中になって、将来の夢を真っ直ぐ語ることがなんだかとても小っ恥ずかしい。
私は(ぼくは)何も考えてないよーっていう顔して容量良く目立たず生きてることが高校生活の正解なのか?
一瞬で過ぎ去る高校時代、一生懸命になれるものを見つけたら、ほんとはそれが一番勝ち組だ
いじめられっ子で弱々しい四条くんにいきなり可愛い彼女ができたのも、ありかがボルダリング部の先輩気になり出したのも、そして、近藤が小寺さんに夢中なのもみんな一生懸命に頑張ってる姿があったから。
少し陰キャラで、クラスメイトとは馴染めず、所属してる卓球部にかろうじて話せる友達がいるくらいの近藤は、ある時隣のボルダリング部でクラスメイトの小寺が登る姿に釘付けになる。
一方写真部のありかは、ひそかに写真コンテストに応募する被写体を探していた。
写真に夢中であることをなんとなく友達に悟られたくなくて、こっそりとクラスメイトの小寺を見つけてシャッターを切っていた。
梨乃は不登校気味で、学校以外の仲間と意味のない時間を過ごす毎日。
そんな梨乃には唯一自信のある特技がある。
それはネイル。
休みの日に、たまたま川辺で出会ったクラスメイトの小寺の手にネイルをしてあげるととても喜ばれる。
四条は小寺さんが好き。
ボルダリング部に入ったのは小寺さんがいたから。中学時代、四条に話しかけるのは小寺さんだけだったから
でも、やっているうちに段々と部活が好きになる。ボルダリングも、部活の仲間も、全てが大切なものに思えてくる。
進路調査表に「クライマー」と書いた小寺さん。
それ以外思いつかない。
ひとりで登っているうちに、段々と自然と一体化していくのが幸せなのだとまっすぐの目で言う。
こんな高校生どれだけいる?
ひとりの一生懸命がいろんな誰かに影響を与えて、誰か何と言おうと自分の夢がぶれない。
登り続ける小寺さん、もし私のクラスに小寺さんがいたならば、なんか違う未来見つけられたりしたのかな?
そう考えたら近藤もありかも梨乃もそして四条も、みんな羨ましくなった。
清々しいほどの青春の風が、小寺さんとみんなのところに吹き抜いてくる。
眩しいほどにキラキラしたその瞬間に、是非とも瞳を輝かせてほしい。
ずっと気になっていた女の子と会話しただけで舞い上がるそんなウブな男の子が、好きなその子に触発されて、対等になっていくからこそのあのラストのシーンがとってもステキ。
嫌味がなく、いい意味でシンプルで、観た人す誰もがほっこり幸せになる作品でした。