まさか

メイキング・オブ・モータウンのまさかのレビュー・感想・評価

4.3
紛うかたなき傑作と断言します。以下、ネタバレのオンパレードになっているけど、これを読んだからといって感興が削がれるほどヤワな映画ではないのでご安心を。とはいえ、ブラック・ミュージックとBlack Lives Matterにご興味なければスルーしてください。

映画は、黒人ミュージシャンをメインに、ロックンロールやポップミュージックのヒットを連発した音楽レーベル「モータウン」の誕生から最盛期まで(本社がデトロイトにあった時期まで)を多角的に描いている。

モータウン創設者のベリー・ゴーディと、その生涯の親友スモーキー・ロビンソンの掛け合いを軸に、存命の関係者のインタビューや記録映像を織り交ぜて編集されているのだが、今年91歳のゴーディがまったく老いを感じさせないチャーミングな爺さんで、語りが面白すぎるのが二重丸。そして、彼の言葉がめちゃくちゃカッコイイ。曰く「アートに肌の色は関係ない。人種が何だ! 俺は勝ちたいんだ」。

本人も社員の多くも黒人だったけど、社内には白人もいて、人種だけでなく男女の別も無関係。ジェンダー云々と言われるようになる半世紀以上も前の1960年代から女性幹部が複数いたモータウンでは、文字どおり才能だけが評価の対象だったというのが素晴らしい。だからこそ、世界中に熱狂的なファンがつくほどの音楽を生み出すことができたのではないか。

僕も中学高校時代にはテンプテーションズやグラディス・ナイト&ザ・ピップス、スティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイなど、モータウン・レーベルのヒットソングを耳にしない日はなかった気がする。

そのようにしてモータウンはデトロイトから世界に向けてヒットソングを送り続け、音楽の革命を成し遂げた。だが、成し遂げたのは音楽の革命だけではなかった、というのがこの映画のもう一つの見どころ。つまり、音楽という人間の共通言語によって人種の壁を取り払うことに成功した(白人の若者たちの多くは黒人が歌っているという理由でその音楽を嫌ったりはしなかった)、ということ。

1960年代初頭にレーベル所属の複数の黒人バンドがバスで一緒にツアーに出かけた時の話が紹介される。とある深南部の町のホールでは主催者が会場の中央にロープを張って白人と黒人の客を分けようとしていたので抗議してやめさせたら、客の若者たちは勝手に人種入り乱れて踊りまくっていたという話だ(当時、ビートルズもまったく同じ経験をして、ポールが主催者に抗議して区分けを取りやめさせた)。

ちなみに、モータウンにおける音楽制作システムは、ゴーディが務めていたことのあるフォードの自動車工場における組み立てラインからヒントを得ているらしいのだけど、ヘンリー・フォードはヒトラー礼讃者で、ナチスに資金提供までしていた人種差別主義者だったのに、そのシステムをヒントにして生み出された音楽が人種差別の意識を覆す役割を果たしたのは痛快というほかない。

また、1960年代初頭にはM.L.キング牧師から「あなた方は私たちとは別の方法で人種の壁を壊そうとしている。手を組みたい」との申し入れを受け、後にはネルソン・マンデラやオバマ大統領からもモータウンに賛辞が送られている。

ミネアポリスで起きたジョージ・フロイド殺害事件を機に人種間の分断を煽るような言説が目立つ今日、この映画は単なる音楽ドキュメンタリーという枠組みを超えて、考えさせられるテーマをたくさん内包しており、その点からも素晴らしい作品と言える。

個人的には、弱冠11歳のスティーヴィー・ワンダーの圧巻としか言いようのないパフォーマンスと、マイケル・ジャクソンの少年時代の信じられないほと華麗なムーンウォーク、そしてあまりにも色っぽいマーヴィン・ゲイの歌声に胸を鷲掴みにされてしまいました。ブラックミュージック・ファンならずとも必見の1本ではないかと、強くオススメします。
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