喜連川風連

なぜ君は総理大臣になれないのかの喜連川風連のレビュー・感想・評価

4.6
今年、劇場公開映画で1番の傑作。

13年にわたって1人の純粋な理念を持った政治家に密着し、等身大の悩みに迫る。

ここには、キャラとしての政治家やうわべだけの虚飾が一切ない。

国を良くしたいという純な想いで溢れている。
だが、トップに登り詰めるには、彼に「権力欲」と「嘘」がない。
他を蹴落としてでも、自分が登り詰めたいと思っている人間と真っ向から戦うとどうしても負けてしまう。

類稀な承認欲求と世論の嗅覚で、のし上がった小池百合子とは真逆のタイプだ。

地元では、世襲の自民党議員が幅を利かせ、主人公小川くんはいつも比例での復活当選ばかり。
政治家の世界では、比例の復活当選は求心力が落ちる=政治家として出来ることが限られてしまうそうだ。

彼は政治がしたいのに、「政治家」に向いていないというパラドックスを抱え、苦悩し、もがく。

その様が生々しく、心に刺さる。

13年の中で、彼の娘は真っ直ぐ成長し、最初は寂しくて泣いていたのが、父親の友人の演説に涙するまでに成長する。
自分も誰かの演説で泣いてしまったのは初めてだ。

新聞、Twitterからは見えてこない「人間」としての政治家を垣間見る貴重なフィルム。

いつも同じことしか言っていないような政治家も、苦悩しながら生きてるんだよ。
そう問いかけてくるようでならない。

民主党への批判の数々を彼自身も失敗だったと断じ、世論がおかしいと思っているそのほとんどのことを小川氏もおかしいと語っていてハッとした。
だが、安倍政権を批判することのほうが、党内での発言力が上がるらしい。

批判は手段であるはずなのに、目的になってしまっている。
本質の議論は棚上げされ、党の利益のために動くものが出世していく。

ため息がでるような政治の現状に、めげず、今日も小川淳也は戦い続けている。

そう思うだけで、少し救われたような気持ちがした。

単なる勧善懲悪に堕した新聞記者が到底及ばない領域にこの映画は到達している。

人間を思わされる素晴らしい映画だ。

もっと多くの人に見て欲しい。
喜連川風連

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