じゅ

海辺の家族たちのじゅのネタバレレビュー・内容・結末

海辺の家族たち(2017年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

なんか勝手に比較的平穏な家族劇かと思ってたけど案外いろんなことが起こりすぎてよ。びっくりよ。
心地よかった過去にすがって時の流れに取り残されることを選んだ者たちのドラマということだろうか。すがっていたい、しかし時と共に遠ざかって行く過去を取り戻すというような具合の。

電車が走り去るだけのカットが何度かあった。何度かあったからには意味があったのだろう。
尺の内、体感で2/3くらいはずっとスクリーン向かって右から左に走り抜けてたっけか。その後終盤で走り抜けた2回(内1回はジョゼフが目で追う描写)はどちらも左から右。
とすると、左に走って行くのは、時が過ぎて愛しき過去が失われて行くことの表現だろうか。かつて栄えたがすっかり寂れた町に、父が寝たきりになった三兄妹、三兄妹の中でも娘と夫を失ったアンジェル、かつて"革命の生き証人"だったジョゼフの牙が抜けて行く様を見続けるヴェランジェール、そして町の過疎化や今は亡き知人と交わした約束を反故にされ家賃を3倍に跳ね上げられたことを嘆くマルタン夫妻。さらにイヴァンは作中で両親であるマルタン夫妻を突然亡くすことになる。
一方で右に走って行くのは、時が戻るかのように過去を取り戻して行く表現か。アンジェルらの父は寝たきりで動けず意思疎通も不可能だったがラストカットで彼女らの声に反応するように頭を動かし、アンジェルはバンジャマンと恋仲になった上難民の子らを我が子のように迎え入れ、ヴェランジェールはジョゼフが執筆活動を再開したのを見て安堵する。唯一マルタン夫妻は何かを取り戻したということではなく、これ以上過去を失わない道を選んだということか。
ラストシーンではアンジェル、ジョゼフ、アルマン、そして難民の少年が高架鉄道の下で思い思いに名前を叫んでアーチ状の構造の中で反響させる。まっすぐ伸びる鉄道を時間軸と捉えるならば、反響する現象はその場所に留まり続けること、つまり時間軸の左(未来)にも右(過去)にも進まないことの喩えに見えた。留まるのは叫んでいた彼らではなく、叫ばれていた名前の持ち主の方だろう。実際に音として反響するのは当然叫ばれる名前の方なので。アンジェルら三兄妹は兄妹それぞれの名前を叫ぶ。彼らは輝いていた過去をやり直すように生きることを選んだ。難民の子らは亡くなった兄弟の名前を叫ぶ。彼は亡くなったため当然彼の時間は止まった。ついでに言うと、難民の子供たちのママは人は死んだ場所に根付くと語っていたそうなので、特定の時間のみならず特定の場所に留まることも示唆しているのかも。特定の場所とは当然この町のことか。

過去を取り戻すという話だと、バンジャマンもかつて虜になった大女優アンジェルと時を経てくっ付いたわけだから、バンジャマンにも当てはまるだろうか。

過去に留まりたい人たちもいれば、そうでもない人もいる。
イヴァンは両親が亡くなった後家を引き払ってラボ開設のためロンドンへ。思い出の品は流石に手放さなかったが、ジョゼフの婚約者のヴェランジェールとまさかの男女の仲になるなど、新しい展開にどんどん身を投じて行く。この人周辺の展開は本当に驚きに満ちてたな。


まあぶっちゃけ物語の捉え方云々より画が最高だったのが重要なポイントかなあ。
色味も造形もやたら綺麗だけど寂れてる港町とか、海の上の小船から遠くに見えるマルセイユとか、最高じゃないか。
じゅ

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