NOR1

ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩のNOR1のレビュー・感想・評価

5.0
ビル・エヴァンスの演奏を録音したレコードを菅原正二が再生し、それをナグラでテープ録音したのちDCPに変換したデータを、オノセイゲンが調整した映画館のシステムで聴く。『饗宴』でのソクラテスの言葉に匹敵する「又聴き」ぶりだが、さすがの良い音だった。

モノラル盤を当時のモノ針や昇圧トランスなどしかるべきシステムで再生すると、その時の「今の音」を聴けることがある。データ変換などせず、レコードの音はレコードで、カセットテープの音はカセットで、VHSの画像はVHS(ブラウン管でとマニアは言う)で再生するのが結局一番だ。テレビや映画の中の蓄音機の音が高音過多で芯のない音ばかりなのも、古臭い音がほしいがゆえの「フィクション」であり、ちゃんとした当時のシステムで聴けばすごい音がするはずだ、とずっと思っている。

さてこの映画の音、もちろん「良い音」なのだが、現場の音とは全く違うこともただちに予感される。良いドキュメンタリーは良いフィクションである(ということは常識として進めさせていただく)が、ここで聴ける音もまたフィクションだということを無邪気に忘れることはできない。オノセイゲンも「再現を目指したわけではない」と言っていたが、「いま」音が聴かれた「ここ」こそが「現場」であり、それをライブで聴いているということか。だとすると、レコードが鳴らされた元の場所の音は「別の現場」としてしか体験しようがない、ということになる。というわけで、ベイシー再開の報が聴こえてくるのを、耳をすまして待っている。

以上、一行でいうと「映画を見たら店に行きたくなった」という感想でした。
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