TaiRa

ヴァスト・オブ・ナイトのTaiRaのレビュー・感想・評価

ヴァスト・オブ・ナイト(2019年製作の映画)
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とてもミニマルだが細かいネタがたくさん仕込まれており、モチーフには古さと新しさを混ぜている。

ラジオが「何か」の音をキャッチする。50年代アメリカの田舎町、高校バスケットボールの試合で街中から人が消えた夜、電話交換手の少女とラジオDJが気付いた。その夜、「何か」が空にいる。全編を通して会話を中心に進められる。謎に迫る為、情報提供者から話を聞いていく中で、二人は知ってしまう。『未知との遭遇』モノをまるで怪談の様なテイストで楽しめる。聞いてはいけないものを聞いてしまう人たちの話。ラジオドラマ向きの物語を敢えて映画でやる為に、過剰な迄にカメラに色を付ける。味の濃いカメラワーク。そこにあるにはオーソン・ウェルズへの意識。『宇宙戦争(The War of the Worlds)』から取られた「WOTW」というラジオ局の名前。ウェルズの『市民ケーン』や『黒い罠』からデヴィッド・フィンチャー(初期)に至る迄のやり過ぎ長回し移動撮影の踏襲。画面のルックにはフィンチャーの影響が強い。ある意味ウェルズがマクガフィンであった『Mank/マンク』よりも真っ当なウェルズ再考映画。もちろんH・G・ウェルズやスティーヴン・スピルバーグの『宇宙戦争』も重要。『アウターリミッツ』や『ミステリー・ゾーン(The Twilight Zone)』の一篇を模した構成。カユーガという架空の町の名前はロッド・サーリングの制作会社カユーガ・プロダクションから。老婆への聞き取りにおけるコッテリした長回しにはM・ナイト・シャマランの風格を感じた。予言されるスマートフォンや自由意志の幻想など、現代人の命題が50年代SF奇談を経由して語られる。何とも言えない後味がまさにSFオムニバスドラマのそれ。
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