うにたべたい

狭霧の國のうにたべたいのレビュー・感想・評価

狭霧の國(2020年製作の映画)
3.5
登場キャラクターがすべて人形と気ぐるみで撮影されているというちょっと異質な特撮怪獣映画。
明治末期を舞台に、大分の本家に戻ってきた青年が、蔵に隔離されている盲目の女性と出会うことで始まるストーリーです。

登場人物の人形たちは、肩や肘などの関節部分だけが動くような感じで、指や口などは固定されていて表情も変えられません。
ひょうたん島やサンダーバードのような人形ではなく、イメージとして文楽に近い感じです。
人形を操っている人形遣いが丸見えというわけではなく、表情の変わらない人形たちが動き、語り合い、現れる怪獣と対峙します。
昭和の子供向けのパペットショーのような映画なのですが、この人形劇と怪獣特撮が意外にはまっていました。
無機質な人形を使った故に生まれる怪しげな雰囲気と、ぬっと現れる巨大怪獣の迫力が調和し、なかなか見させてくれる作品だったと思います。

特撮はCGを使っておらず、古式ゆかしい気ぐるみ怪獣と特撮技法で撮影されています。
怪獣のデザインもほぼただの首長竜なのですが、遠くからみても見分けがつきそうなくらい、印象的で素晴らしいシルエットだと思いました。
怪獣の名前は、元は日本神話からアメノサギリ(天乃狭霧)と呼んでいたそうなのですが、子供でもわかりやすように、3文字で濁音がつき"ラ"で終わるネブラ(nebula=ラテン語で霧)としたそうです。
昨今は5文字とかもっと長い名前の怪獣も多いですが、ネブラという名前もとてもステキです。
個人的には最近の怪獣って、基本的に造形がやたら複雑で、CGでグニョグニョ動くくせに印象が全く残らないのが多いと思っているのですが、そういう意味でネブラは非常に良かったです。
こういう怪獣がガメラやゴジラと戦う姿がもう一度みたいなと思います。

ただ、シナリオだけはもう少しだったように思いました。
盲目の多紀理は、途中で盲目設定を忘れたように走っり回ってネブラを追いかけるのですが、なんの役にも立ってなかったような気がします。
また、序盤でネブラが台車を押しているおじさんに襲いかかりましたが、あれはどういう意図だったのか。
無関係な人を一方的に谷底へ突き落とし、凶悪で残忍な巨大生物"ネブラ"が現れた!と思いきや、多紀理には心を通わせるような描写があり、ネブラは結局どういう性格の怪獣なのか謎のまま終わった気がします。

雰囲気は良いのですが、評価の8割が雰囲気でもってるような感じがあります。
ただ、世間にはもっと予算をかけて宣伝してるのに酷い作品が多い中で、本作は低予算にも関わらず素晴らしい作品だったと思います。