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国葬のTSのレビュー・感想・評価

国葬(2019年製作の映画)
3.5
【独裁者を偲ぶ群衆】75点
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監督:セルゲイ・ロズニツァ
製作国:オランダ/リトアニア
ジャンル:ドキュメンタリー
収録時間:135分
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 セルゲイ・ロズニツァ監督の群衆三部作の一つ。国葬といえば去年に実施された安倍晋三氏の国葬が記憶に新しいですが、失礼ながら今作の国葬は桁違いのもの。それもそのはずで、今作が扱う国葬は、かのソ連を代表する独裁者ヨシフ・スターリンの国葬だからです。前回鑑賞した『アウステルリッツ』もひたすら群衆の動きや表情を映しただけのものであり、今作もそれに近い作風となっています。二時間以上ただただスターリンの遺体を見て泣き啜る群衆を捉えている映画なのです。もちろん、スターリンに献花をする人々や、スターリンを偲ぶ演説なども聴けますが、基本的にはストーリーは無。「スターリンの死」という歴史的事項をただただ映し続けたドキュメンタリー映画と言えそうです。なので、これに関してはあまり大きな声ではいえませんが倍速で視聴しても何ら問題はないかと思えます。

 それにしても唖然となりました。何故なら我々が学んだスターリンは独裁者であり、毛沢東、ヒトラーと並ぶ程の厄介な人物であるからです。無論、社会主義の理念は国内でも痛烈に国民に届いたと思うので、国民はさぞ苦労したと思われます。怨念すら抱いていても何らおかしくない中で、数えきれないほどの国民がスターリンの死を悼んでいるのです。何だろう、この様子を見ていたらどこかの国を嫌でも思い出してしまうのですが、いやそれでもこの国葬の規模は桁違いであります。冒頭、スターリンが死去したことを伝える新聞が出回りますが、これがもう死ぬほど売れます。皆、仕事の手を止めてスターリンを追悼します。ソ連という国がスターリンを想う日となるのです。

 改めて社会主義という国がどこまで一体化しているのかということが垣間見れました。何度も言いますが、スターリンが世界的独裁者であるということは紛れもない事実です。そんな中でも泣いて悲しむ人々を永遠とみてしまうと、自分の感覚がおかしいのかと思えてしまうくらいです。まあまもなくフルシチョフがスターリン批判をするため、スターリンの遺体はレーニン廟から出されるわけですが、あの国民達の涙に偽りはないでしょう。ただ、群衆こそが多勢であり、多勢こそが正義となると、その正義の多勢が認めたスターリンは、少なくともソ連内では当時英雄だったのかもしれません。英雄と悪人は紙一重ですね。

 ちなみに防腐処理がなされたスターリンの遺体は最初こそレーニン廟にいれられたものの、先述したスターリン批判の後、レーニン廟から出されて燃やされて、レーニン廟裏の墓地に埋葬された模様。その墓は今でも厚いコンクリート板に覆われて、二度とスターリンが立ち上がらないように願われているといわれています。
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