mplace

水を抱く女のmplaceのレビュー・感想・評価

水を抱く女(2020年製作の映画)
3.9
ギリシャ神話における水の精霊である「ウンディーネ」の話を下地にしながらも、舞台を現代のベルリンに設定し、都市を俯瞰するような撮影と、歴史の具体的な説明を含んだ演出がなされている。そのせいか水中の映像以外にも都市の間を浮遊しているような感覚に襲われた。

第二次大戦以後に東西に分断された時代から東西統一後のベルリンの都市の変容について、ウンディーネが博物館でレクチャーを行うシーンが度重なるので、実際にベルリンに住んでいる自分としては身近に学べる地政学として興味深くあったが、ベルリンに馴染みのない人にとっては退屈に思える部分かもしれないなとは思った。

資本家による投資が増えた事による現在のベルリンの地価高騰が、深刻な家賃の高騰を引き起こしているという現実的な問題も真面目に取り扱っているところが非常にドイツ映画らしいとも思うが、ウンディーネの物語を主軸にしていることにより、都市の変容に伴い精霊の物語もアップデートされている事が示唆されているように思う。

実際に終盤である出来事をきっかけに「死の交換」が行われている。そしてウンディーネがクリストフに与えた「許し」も確認される。元のウンディーネの話を全部把握している訳ではないが、この点についてはペツォールト監督により加えられた新たな解釈ではないかと想像する。

昔からの伝承も、このように都市の移り変わりによって相対的に変容していくものであり、そのような変化を受け入れる事がつまり都市の進化に繋がるのではないか、というメッセージがこの映画から感じられた。

ちなみにこの映画で使われている音楽がBee Gees以外ではバッハの同じ曲が時折繰り返されるのみ、という限定された使い方だった事が、この映画の静かで寓話的な印象を強めていて良かったように思う。

蘇生する時のBee Geesにはちょっと笑った。
mplace

mplace