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悪は存在せずのkabcatのレビュー・感想・評価

悪は存在せず(2020年製作の映画)
3.9
イランというと、遠くにある違う世界というイメージを抱きがちだが、ここに登場する人々の多くはわれわれと変わらぬ暮らしー妻や子供に振り回されたり、年老いた親の世話をしたり、恋愛を楽しんだり、誕生日を家族で祝ったり、常にスマートフォンをいじったりーをしている。その一方でこの国にはわれわれには考えられないような制度も存在しており、「普通の暮らし」をする人たちに重くのしかかっている。その制度を前にして、彼らは感情を殺してやり遂げるか、泣きわめいて逃げるしかない。そしてどうにかやり過ごした後にもその影響は後々までつきまとう。

どうしてこのような理不尽な制度があるのか、映画は4つのエピソードにより問題を投げかけている。最初のエピソードが最も強烈なので、テンションを最後まで保つのに難儀しているが、それでも美しい映像と印象的な顔立ちの俳優たちの演技により、2時間半の長丁場をなんとか乗り切っている。その最初の話に登場する主人公は、よき家庭人よき隣人として描かれているのにどうしてこうも無表情なのかと思っていたのだが、結末に愕然とした。

イランの俳優さんたちは老若男女問わずフォトジェニックな人が多いなあと思った。とりわけ第3話の恋人たちのルックスがすごく好きだったので、切ない話の展開に泣きたくなった。
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