akrutm

悪は存在せずのakrutmのレビュー・感想・評価

悪は存在せず(2020年製作の映画)
4.2
イランの死刑制度を題材にした4つの物語から構成されるモハマド・ラスロフ監督のドラマ映画。4つの話は完全に独立しているが、死刑を執行する人たちを描くというテーマは一貫している。第1話以外は徴兵による兵役の一部として死刑執行を行う一般人が描かれている。

死刑という国家の犯罪行為を考える上でこれほど適した映画はないだろう。本作を通じて、自分の意志とはまったく関係なく仕事や義務(イランでは兵役の一部として死刑執行があるのは驚き)として他人を殺すという行為がどれだけ(執行する人に対して)非人道的なのかが実感できる。先進国の中でいまだに死刑を執行している数少ない国のひとつである日本の人々は特に本作を見るべきである。死刑を支持する人々は、人を殺すという行為を他人に押し付けずに、自分自身で実行することを考えてみるとよい。

なお、本作は第70回ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞したが、モハマド・ラスロフ監督は国外への出国を禁じられていたために授賞式に出席できず、監督の娘であるバラン・ラスロフ(本作の第4話でドイツ在中の医学生役で出演もしている)が代理として出席した。その直後にラスロフ監督はイランの体制を批判するプロパガンダ映画を製作したとして懲役1年の判決を受けたが、コロナ禍のために収監は延期されていたのが、今年の7月に逮捕された。また、ラスロフ監督の逮捕に関して検察を訪ねた映画監督のジャファール・パナヒもそのまま逮捕され、懲役6年の判決を受け収監されているようである。それだけ映画の力を恐怖に感じている証拠であろう。ジュリエット・ビノシュなどの仏女優も支持を表明している最近の反体制デモをきっかけに、イランが良い方向に向かうことを期待したい。
akrutm

akrutm