もものけ

グリード ファストファッション帝国の真実のもものけのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

ファストファッションと呼ばれる低価格でありながら最先端の流行を取り入れた服飾産業で財を成したリチャード・マクレディ卿。
英国の伯爵号を持ち還暦を祝うパーティーをエーゲ海で開催する準備に大忙し。
自伝を書くためにライターのニックは、リチャードへ同行し関係者から様々な話を聞くが、エーゲ海には中東から難民が押し寄せて来ているのだった…。



感想。
インタビュー形式を取り込んでドキュメンタリー・タッチに描く服飾産業王の事実。

皮肉たっぷりに描かれております。
実名の芸能人を出してコケにしたり、リアリティ番組のクソのような陳腐な演出など、辛口で不平不満を撒き散らしてワガママし放題のセレブ達が滑稽です。
だいたい、リアリティ番組なのに演出がある時点でリアリティではありません(笑)

「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」ではマクドナルドの創業秘話としてますが、こちらの作品は架空の会社を舞台に企業業績のマジックを明かす内容となっております。
M&Aの裏事情の仕組みを財務会計から聞き出すくだりは、なかなか面白い内容で、企業買収や合弁の裏にある"金"の流れが最初から仕組まれて、トップ連中が利益に群がれるようになっている、蜜に群がるアリとして描かれているのには笑ってしまいます、まさに天才ですね盗賊としての。

セレブの華やかな虚栄に満ち溢れた生活が延々と映し出され、その優雅で贅沢な暮らしぶりがまさにリゾートという感じです。
対比構図として、そのセレブが利益を得るために探した安い労働力の宝庫、開発国の現実も映し出され、広大な貸し切りリゾート地に数人のセレブが暮らすよりも狭い土地に、水道もなく12時間労働の100人が住まうバラック小屋が紹介されております。
雇用というチャンスを与えていると言えば正当化されますが、植民地支配時代と変わらず、先進国の中層階級が購入する物を供給するコストとは見合わないほど、"搾取"と言ってもいいような現実が経済を支えていて、何とも言えません。
先進国で安い物を求めれば求めるほど、開発国では買い叩かれコストを下げるには薄利多売を強いられ劣悪な環境での労働になります。
同じファストファッションブランドも薄利多売ではありますが、中間マージンを削りに削る為、麻薬ビジネスと同じく原産国との賃金と値段に大きな開きが生まれ、多売すれば利益が増える計算になるので、買い叩けば叩くほどウマ味になります。
この貧富の差を作品では描いております。

悲壮な現実とセレブの暮らしぶりをシニカルに表現しておりますが、檻から放たれたライオンに噛み殺されるシーンはショッキングで、一気に作品の様相が変貌します。
虚栄だけで生き抜いた力を持つ詐欺師は、自然の王者の力の前には無力であるということでしょうか。
CGで作られたライオンが、残酷描写たっぷりに襲いかかる血みどろさは、作品で唯一の現実感あるシーンであり、非現実的なセレブの暮らしぶりが夢であったかのように呆気にとられてしまいました。

しかし、故人を踏み台にする"強欲"の塊である親族が経営を引き継ぎ、より一層コスト削減して大量に売り出すとしめるエンディングに、経営者が代わっても世界の構図は何も変わらない現実を想像させられて、何とも言えない気分になります。
それらは我々先進国が安く購入しようとする物の影にある、開発国を踏み台に経済を回している世界でもありますね。

リアリティ番組を作中で多用しているのは、セレブ達の腹の中と表面の乖離した違いをメタファーとしており、CEOが死んでしまって悲しみに暮れるシーンが、全く共感できず陳腐に見えるのは、このためである秀逸な手法ともいえます。

批評家評価ではありきたりな内容で新しくもないと低い評価ですが、私としてはこういった世界へ目を向ける内容の作品は好きなので、シニカルたっぷりに表現した光と影の物語に、4点を付けさせていただきました!

持つ者と持たざる者のスタートラインの違いは、人生にチャンスが訪れるか訪れないかの決定的な違いであり、"蛙の子は蛙"ということわざは全く的を得ている言葉なのだと痛感させられてしまう作品でした。

エンドロールで対比される数字がものがたっております。
もものけ

もものけ