ずどこんちょ

まともじゃないのは君も一緒のずどこんちょのレビュー・感想・評価

3.7
数学オタクの予備校教師と上から目線の女子高生。ちょっと変な二人の"普通の人"とは何ぞやを求めるストーリーです。
主演の成田凌と清原果耶の丁々発止な掛け合いがとても面白い。特に成田凌は大野先生のキャラクターが憑依しているかのようで実に自然体に数学以外に興味がなかったような偏屈者を演じているし、二人の止まらないやり取りが間違いなく本作の見どころの一つです。

清原果耶は悪戯っぽく笑ったり泣いたり怒ったり、そしていつしか先生に恋心を抱いてしまって複雑な心境に苦しんだりと感情が大忙しです。
「このままだと普通に結婚できないよ?」と上から目線で先生のことを引っ張って作戦を立てたりしているのですが、自分が先生のことを好きになっちゃうと恋に落ちる理由が分からなくて突然知り合いでもないカップルにインタビューを始めてしまったり、憧れの教育論者とその周辺の情報を調べ過ぎてまるでストーカーのようになっていたりと、側から見れば十分「変人」。

成田凌のまともじゃない感も細かく作り込まれていて香住と話している時の癖の強い喋りはとても笑えます。数学の話になると早口になるところとか、相手の話を咀嚼せずに単調に繰り返す癖とか、まともなコミュニケーションを苦手としている感じが伝わってきます。高く短い引き笑いも独特です。
それなのに、気の合う女性との会話ではとても物腰柔らかで穏やかなのです。現実的にそんな上手く切り替えられるものではない気がしますが。
それにしても、成田凌の演技は役によって大きく印象が変わって驚きます。

普通の恋愛とは何なのかを探るために、香住の憧れの人の婚約者である美奈子に身分を偽って近づく大野先生でしたが、次第に大野先生と香住は「普通の人」たちの生き方に疑問を感じ始めます。普通が良いと思っていましたが、普通に生きるとは何か気持ちを封じるような息詰まるものだったのです。
まぁ、そもそも彼らが求めていた"普通"なんて大野先生的な言葉を使えば定量的に分析できない幻のようなものなのですから当然です。
普通なんて、つまらない。何が普通なのかも定められていない。
そして、美奈子たちが"普通"にくだした結論は、大野先生にとってはどう考えても"異常"だったように、人の"普通"だと考えていることは別の誰かにとってはまともには見えないものなのでしょう。

「あなたがいいなら、それでいい」。
大野先生のその答えは、相手の価値観が自分の価値観とは違うということを全面的に認めた的確な解だったと思います。
"普通"の解などは存在せず、それぞれが自分がまともだと思っていることを選択することが、この世の真実なのだと思いました。