ギズモX

DAU. 退行のギズモXのレビュー・感想・評価

DAU. 退行(2020年製作の映画)
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【その宗教は進化のために退化する】

前代未聞のスケールでソ連全体主義社会を再現するプロジェクト『DAU』の第二作品目。
超人を作ろうとする秘密研究所での腐敗しきった人間模様を描く、公開時間6時間越えの尋常じゃないウクライナ映画。

とある映画評論家が「十年に一度の衝撃!」と大絶賛していたのが本作を知ったきっかけ。
大規模な施設内にソ連時代の共産主義社会を形成させ、そこに人を住まわせてどうなるかを観察した、巨大な社会実験の記録映像を映し出すドキュメンタリーとしての側面が強い作品。
それ故にこの映画、脚本があり、役者の演技があり、演出があり、な一般的な映画の体を成しておらず 、ダラついた会話劇が約6時間にも渡って繰り広げられるという、それはそれは狂ってるとしか言いようがない出来となっている。
ぶっちゃけた話、ストーリー最序盤でのラビの講義中に爆睡してる人がいたから、そういうものだと割り切って僕、半分ぐらい寝てました。

あとこの映画最大の問題点が、施設で暮らすようになった彼らの日常生活、これが犯罪行為の応酬でしかないのね。
まともな人間だったらすぐに逃げ出すレベルで酷く、最後のあれに至っては狂気そのもの、地獄でしかない。
研究所で行なってる実験もオウム真理教がやってそうなオカルトじみたもので、はっきり言って気持ち悪い。
どこから台本でどこからアドリブなのかが一切分からないから本当に恐怖を感じた。
コイツら今一体何しとんの?
今はロシアとウクライナ戦争中だからマジでヤバいことやらかしてないか不安になってしょうがない。
いくら何でもやっていいことと悪いことがある。

ただ、この施設内で発生した地獄絵図は閉鎖された共産主義社会だからでは済まされないということを一番声を大にして言っておきたい(もちろんソ連の体制は最悪だが)
問題なのは「宗教は民衆のアヘンだ」と宗教を否定する共産主義そのものが巨大な宗教と化したことであり、これらのことは条件さえ揃ってしまえば社会主義や共産主義を否定してようがしてまいがどこにでも起こりうる。
むしろ終盤でとある教授が警告していた様に、2010年代から排他的愛国主義が台頭してきた今の現代社会だからこそ起こりやすい。

これは、なぜ僕が今になってこの映画のレビューを書いたのかに繋がってくるけど、今世界中を騒がせているTwitterがXに変わったあの騒動。
あの一連の出来事がこの映画の中で起きたことと重なって見えたのね。
ある意味ではTwitterも社会実験みたいな性質を持っているから。

去年にTwitter社を買収したイーロンマスクは先月にTwitterの名称をXに変え(Xって何だよマジでふざけんな)Xをスーパーアプリにすると表明していたが、連中の政策はユーザーの意見を完全に無視した蛮行であり、今まで積み上げられてきた文化や情報、インフラなどを現在進行形で破壊している。
新しい所長に気に入られた実験体が我が物顔で研究所内をふんぞり返り、全てを破壊したのと同じように。

実際、イーロンマスクはヘイト発言で凍結させられていた極右のアカウントを次々と復活させているし、買収後で差別的な投稿が増えたとの調査結果をだした差別監視団体を提訴した。
しかも来年には米国の大統領選挙が控えている。
悪い方向に進む未来しか見えてこないだろ。
僕は今の旧Twitterの方針は非常に危険だと考えている。
少なくとも独裁者が支配するSNSを使いたいとは思わんよ。

これからどうなるのかは分からないけど、もう元には戻らないのだろう。
どこにでも起こりうる話なんだ。これは。

https://youtu.be/ygsRYXn7nFc
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