このレビューはネタバレを含みます
見終わって感じたことは淡々としていた、だった。冒頭のシーンから、ジルが生きていることがわかる。もしそれがわからなければ、もっとハラハラしたかもしれない。
ジルは連行される車の中で、パンとペルシャ語の本を交換させられる。銃殺される前にユダヤ人ではなくペルシャ人だと嘘をつく。コッホ大尉にペルシャ語を教えなければならない。1日4語、戦争が終わるまで毎日。二年は終わらないだろうと。
どうやって作って覚える?
コッホ大尉が、響きが綺麗だといったジルのペルシャ語は、囚人ひとりひとりの名前から作ったものだ。
そのペルシャ語を話す時、コッホ大尉は本当の自分をだすことができ、ジルを信頼し大事にする。
本物のペルシャ人が捕まって来た時は、バレるんじゃないかとハラハラした。
自分の命も人の命も同じように守り、助け助けられた兄弟との関係がつらかった。
生きのびるために必死だったジル。しかし
自分も他のみんなと同じ集団で死への道を歩こうとする。ナチス兵からの恩恵より、名前もない集団の1人をえらぶ。
ジルは穏やかで賢くて、守りたくなるような愛らしい人物だった。演じた俳優さんの魅力なのか迫害を受けなければならなかったユダヤ人の象徴なのか。
どんな時も奇跡は、知恵と創造、生き抜く強い思いと勇気。人の助け。と偶然。全てが詰まっての奇跡。
コッホ大尉が、夢を叶えるため、空港で親しみをこめ得意げにジルから教わった嘘のペルシャ語を話す。
同じとき、ジルは、収容人の名前をたずねられる。コッホ大尉に教えた(自分が作ったペルシャ語)の数だけの名前の記憶。名もなく死んでしまった人がジルを生かしてくれ、記録が燃やされてしまっても、生きているジルが記憶している。
この作品はずっと同じトーンで描かれて特段気持ちを上げたり下げたりはしない。一貫して暗くて冷たくて寒々しい。渋い映画だった。見てよかった。