モンティニーの狼男爵

GUNDA/グンダのモンティニーの狼男爵のレビュー・感想・評価

GUNDA/グンダ(2020年製作の映画)
5.0
セリフ、ナレーション、映画音楽、色も人も無い。誘惑される感情が一切ない状態で、ただ自分の中から湧き出てくる純度100%の感情。英断すぎる。
ここまで情報量が無い映画を観たことがないから、おれの中ってこうなるのか。。という稀有な体験をした。

モノクロのポートレートで撮られている吸引力は凄まじくて、なんて上品な映像美だろうと恐くなるほどだった。
長回しも多く、ダレそうになったタイミングでドアップの鶏の足。大地を掴むたくましいそのフォルムに一つの生命であることを思い出す。自分が彼らを「家畜」という前提とでしか見れていなかったことに気が付く。どこか上から目線で、何かを諦めたような視線で。
彼らも腹が減り、温度があり、何かを感じながら行動する命であることを忘れていた。
不意に映り込む耳のタグ、断絶された金網、固定された角、流れる高圧電流。命に気づいて「家畜」であることを忘れかけていたその時に、また初めのフェーズに塗り替えられる。

生まれた瞬間にその目的を他の生命体に規定されて、おそらく死ぬ瞬間すらその手に握っている。こうして人間は長いこと傲慢に生きていて、それに耐えられないから神を創ったんじゃないかとさえ思った。たとえ便利でも命を管理することが、自分たち自身で許容できなくて、「所詮我々も神に定められている」と言い訳するために。

愛くるしくてスタイリッシュで、「こいつのんきな顔してんなぁ」とか「こいつはプライド高そうだな」とか訴えてくる。顔の撮り方がいちいちうまいのか。行動倫理も本能もきっと自分と違うから感情移入なんてさらさら諦めて80分ほど観ていた。それでも体験としてすごく面白くて満足していたのに。。


こっからネタバレ






















最後のグンダ。何もかもわかっていないだろう。我が子がどこに行ったのかもわからず、ただひたすら同じ場所をグルグルと回って、咽び泣くこともできず鼻を鳴らす。泣いて泣いて、少しの勇気を持って発信できれば優しくされる社会とは無縁の生き物。
彼女の根本的で本能的な感情が不意打ちに訪れていたたまれなかった。今まで美しいと感じていたモノクロームすらそれを助長してくるようで恨んだ。
きっとグンダにとっては初めての経験ではないのかもしれない。トラクターのエンジン音が聞こえた直後、不自然に小屋の縁を2回噛んだ。我が子達がいなくなったあとも、何かの器具をガリッと噛んだ。また、この彼らが持っている命は「家畜」である定めの中にいることを思い出して少し涙ぐんだ。…グンダ。

2021🏅