たべみかこ

辻占恋慕のたべみかこのネタバレレビュー・内容・結末

辻占恋慕(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

この映画を観て怒る人もいるかもしれない。
でも、この映画を観て人生を変える決断をする人もいると思う。(必ずしも前向きではないかもしれないが)

青春という生き方の苦い部分を音楽と笑いがエンタメにしている。思い当たる節が多すぎて、ついつい過去と重ねてしまった。

作品を観ていて思うところが多すぎて、とっくに青春なんて終わったと思っていたのに、あの頃の気分が呼び起こされてしまった。

例えば、あえて細かい部分で言うと、
劇中、川上なな実さん演じる、ゆべしと同じ事務所の人が飲みの席の話の流れで
「生きてるだけでクリエイター」
みたいなことを言うんだけど、この手の表現って若い頃(というか今もだけど)、嫌いだったなーと思い出した。

言わんとしてる意味はわかるんだけど、結局は野狐禅でいうところの “諦めた人が発明した” 体のいい解釈であって、そういうのでごまかして生きてる大人にはなりたくないなあと思っていた。

いままでの大野監督の作品に比べて、シリアス度とかエモさが少し高めに感じたけど、それは編集に加わってる谷口恒平 監督の影響だろうか?

もちろん題材もあるのだろうが、なんやかんやで、もうちょいコメディ寄りなイメージだったので、今回のはストレートな表現があったり、ちょっとドキッとした。

そして、終盤の衝撃の展開。予告編で観た「愛してる」からが完全に予想外で、一瞬ポカーンとしてしまったけど、最後の終わり方を含めて、とても好きでした。

青春三部作はこれにて完結らしいですが、個人的には今後のが楽しみ。大野大輔の真骨頂はもう少しハードな要素も加えた作品だと勝手に思っているので、もうちょいクレイジーな作品を期待しています。
(辻占恋慕はこれはこれで大好きです)

あと、個人的には終盤のメッセージっぽく見えるところは、この作品の本質ではないし、監督が真に伝えたいことなんかでもない、と思っています。最後にはちゃんと信太(主人公)自身にも刃が返ってきているし。むしろ、そこに持ってくまでのフリにしかすぎないというか。(完全に無粋な感じで申し訳ないですが‥‥)

もちろん、作り手の素直な愚痴というか本音ではあるかもしれないが、本心ではない気がする。観てくれる人が居なくちゃ成立しないことなんてみんな重々承知しているはずなんで。
むしろ、SNSまわりのそういうものを形骸化した、ただの作り手のあるある、なのかなあと想像しています。

要は何が言いたいかというと、終盤の部分の印象だけでこの作品を嫌いになってる人がいたら、もったいないなということ。そんなにシリアスなメッセージではないと思う。

んなことを言ってたら、上映後のツイートを見ると、実際、演者目当てで見に来た人のが目立ってて、少し笑ってしまったが、ただ、入り口がそうなだけで、ちゃんと作品を観てくれている人もいることは重々承知なので、全く批判とかではないです。

一方で、今の映画(映画館)ってそういう人たちに支えられてしまっているんだなあと少し残念に思ったのも事実。
要は外様に占領されちゃってるというか。。
映画館は誰にでも門戸の開かれた場所であるべきだと思うけど、映画自体が好きな人たちがもっと増えるといいなあと思いました。

あと満席になってないのは、ムーラボとかTAMA WAVEとか、その他もろもろの先行上映とかで、すでに観てる人が多いだけだと思うんで、あんま気にしなくて良いと思います。
(近年のインディーズ映画の満席商法みたいのあんま好きじゃないし)

長々と書きましたが、結局のところ、
「彼女との今日までのことを思い出なんかで片付けるつもりは全くありませんから」
と啖呵をきる大野大輔に惚れる映画です。
たべみかこ

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