M

チェチェンへようこそ ーゲイの粛清ーのMのレビュー・感想・評価

4.3
戦争や中絶禁止、カルトとの政治癒着など世界中で21世紀とは思えない出来事が起こっているけど、それらを目撃してもなお受け止めきれないショッキングな現実が録られていた。

本作では"ゲイ狩り"なる迫害を受けた被害者を守るためにディープフェイクが使用されていて、それ自体がチェチェンでは性的マイノリティである限り正体を隠して生きなければならないことを意味するような表現手法でもあったんだけど、そんな領域に収まる話ではない。
共和国首長ラムザン・カディロフは「ゲイ狩りはあり得ない。チェチェンにゲイは存在しないから」と言い放つのだが、その背後にはプーチン政権の後ろ盾があるという。
カディロフを支持するプーチン政権がこの野蛮な人権侵害を黙認するので、国家警察が逮捕し、拷問し、殺害。
拷問されたくなければ知り合いを挙げろと芋づる式に逮捕し、さらには家族にも殺害するよう忠告するので、多数の性的マイノリティが国家と家族から亡命せざるを得なくなるという、あまりにも悲惨な実態がそこにはあった。

今まで仕事があり恋人がいて"人生"のあった人が、性的マイノリティだからと拉致され、拷問、殺害脅迫を受け、命を狙われ難民になる。
そこには権力者の存在があり、「そんなことあってはならない」という常識すら通じない。
独裁的な権力者がいる限りモスクワが第二のチェチェンになる可能性もあるし、ロシアに限った話でもない。
このような絶望の連鎖を、本作は生々しく突きつけてくるのだ。

正直、どうしたらいいのかわからない。
「殺されなければ我々の勝ち」と最後に言っていたけど、基本的人権が守られるようにするには、独裁的な権力者の暴走を止めるためにはどうしたら…
この映画がより多くの人に観られることを願う。
(暴力的な描写があるので苦手な方はご注意ください)
M

M