モスクワから遠く離れたコーカサスの旧国、チェチェン。政治的な事情から、中央政府も容易に干渉できないこの土地で行われるLGBTへの逮捕・拷問を取り上げたドキュメンタリー。
現在進行形の弾圧という機微なテーマを扱うがために、ディープフェイク技術によってインタビュイー達の顔を加工した形で進行する異色の作品。その分、被害者達の表情は読み取れないが、抑圧的な状況から逃れ、海外に亡命しようとする彼らの葛藤や、憤りは言葉からでも伝わってくる。
それにしても、紛いなりにも世俗的な民主国家の体を取っているロシアで、このような前近代的な動機で、警察が同性愛者を弾圧しているというのは驚きだが、政治的に中央政府が強権を以て押さえつけている土地だけに、地元政府への批判にリンクする動きにスポットライトを当てたくない本音もあるらしい。抑圧的で暴力的な社会であるほど、マイノリティの人権が蔑ろにされるのは世界中どこでも変わらないということなのだろう。
映像技術の発達によって、これからも人々のプライバシーを守りながら作品を産み出すこの映画のような取り組みは普及していくかもしれない。ただ、願わくば本当は、誰もが顔を出して堂々と意見を発信したり、あるがままの姿でいられる社会の実現が先であってほしい。
