げげげんた

チェチェンへようこそ ーゲイの粛清ーのげげげんたのレビュー・感想・評価

3.8
2017年に始まったロシア・チェチェン共和国による同性愛者の強制収容・拷問・虐殺の実態と、迫害からのがれるため亡命を支援する団体に密着したドキュメンタリー。

同性愛者への酷い暴力の証言や証拠映像、チェチェン共和国の首長Kadyrovの「チェチェンにゲイは存在しない、ゲイは人間ではない」と罵る様子、空港での緊迫したやりとりは顔こそ変えられているがすべて本物で、
もし私がここで生まれてたらどうなってたんだろうと考えたし、ある意味ほんの紙一重の運の差で人生がこんなに左右されることが果たして正当化されるのか非常に疑問に思う。

一番印象に残ったのは被害者の1人が「チェチェンの人々はとても暖かく優しいのに、こんな残虐な行為がなぜできるのか理解できない」と話していること。
わかりやすく悪い人や権力者だけが暴力の主体ではなく、中には家族から脅迫され助けを求めた人もいる。その人たちもおそらく普段は暖かく優しい人たちだが、国家権力が「この人たちは迫害して良い」と名指しにした瞬間酷い暴力を振るうようになる。そこには相手がどんな存在であっても同じ人間として扱う「人権」の考え方が欠落しており、暖かくて優しく、道徳やモラルがあっても人権・権利の考え方がないとここまで変貌するのだということを象徴するエピソードだ。

2017年ごろの実態を収録したこのドキュメンタリーは2020年に放映され、今2023年。新たに同性婚を認めた国もたくさんある一方、ウガンダやロシアなど、さらにLGBTQ+の存在を認めないような法律を通している国もあり、さらに多くの犠牲者の増加が危惧される。

一方で、少しだけ光が見えた後日談として、一人の男性が実名・顔を出してロシア政府に捜査と究明を要求し、ドキュメンタリーの中で訴えはあっさり棄却されるものの、今年欧州人権裁判所で人権規約に違反するとの判決が出たそう。
https://www.hrw.org/news/2023/09/12/setting-record-straight-chechnyas-anti-gay-purge

そして150人ちかい亡命申請者のうち40名を受け入れたカナダと、1名も受け入れなかった当時のトランプ政権のアメリカや、そもそも難民をほとんど受け入れない日本の差に、人権が政治に左右されることへのやり切れなさを感じる。

今年はじめてウガンダから同様の理由で難民申請をした女性が認定されたが、日本でもっとこのようなケースに対応できるような仕事・活動もしていきたいと感じた。
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