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Uppercase Print(英題)のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

Uppercase Print(英題)(2020年製作の映画)
3.7
【プロパガンダの皮をひらいてとじて】
第71回ベルリン国際映画祭で済藤鉄腸さんとKnights of Odessaさんが注目しているルーマニアの映画監督ラドゥ・ジュデの新作『Bad Luck Banging or Loony Porn』が金熊賞を受賞しました。ラドゥ・ジュデといえば第65回ベルリン国際映画祭に出品した『Aferim!』が監督賞を受賞したことで一躍注目された監督であるものの、日本ではまだあまり認知されていない。彼らの紹介を読むと、演劇的手法を用いてルーマニア社会を風刺するタイプに監督だとのこと。そんな彼の新作『Bad Luck Banging or Loony Porn』は学校教師がマスクをしていたにもかかわらずセックステープが流出してしまったことにより法廷バトルにもつれこむコロナ時代も考慮した粗筋だそうですが、予告編を観ると突然MARVEL映画のような異次元の輪っかが登場して混沌としていました。

さて、そんな変わった監督ラドゥ・ジュデの過去作『UPPERCASE PRINT』がMUBIにて配信されていたので観てみました。

本作の背景的な部分は専門家にお任せしたい。それでも本作でやっていることはトンデモなかった。

冒頭、ブラウン管のノイズが特徴的な画が映し出される。どうやらテレビで人が喋っているのですが突然黙り始める。喋ろうとしているのだが、中々喋り出さない。カンペがないと彼らは喋ることができないのだ。

チャウシェスク政権下で見つかった落書き。自由を求めるメッセージが込められたその落書きを巡って秘密警察は動き始め、若者Mugur Calinescuが殺されてしまう。それを、テレビ番組のようなステージの上で人々が再構築していく。話されることは物騒なことばかりなのに、そこで挿入される映像は子どもが「おかあさんといっしょ」のような空間の中でワイワイ遊んでいたり、経済成長しているアピールをするCM、軍隊や市民による集団行動だったりするのだ。つまり、表面的には国家として成功しているように見えて、その実情は市民の声を踏みにじっている。それをまるで、シールをひらいてとじる感覚で演劇パートとフッテージを交差させることによって辛辣に社会批判してみせるのだ。プロパガンダの再構築によって新たな社会批評の方法を模索している監督にセルゲイ・ロズニツァがいる。彼は『国葬』の中でスターリン時代のプロパガンダを再構築することによって、プロパガンダで封殺されて市民の痛みを強調していたが、『UPPERCASE PRINT』の場合、淡々と喋る役者の演技とプロパガンダが悪魔合体することによって、痛みが継承されていく過程まで描けていた。

ルーマニア史に疎いこともあり、難解な部分も多かったのですが他の作品で観たことがない表現技法にただただ指を咥えて見守るしかない凄まじい作品であったことは確かだ。クセが強すぎるため日本公開するか微妙なところですが『Bad Luck Banging or Loony Porn』楽しみです。
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