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The Exit of the Trains(英題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

The Exit of the Trains(英題)(2020年製作の映画)
4.5
[ルーマニア、ある虐殺の記録]

久々に椅子から立ち上がれなくなるくらい消耗する映画を観た。1941年6月29日、ヤシ市において1万人以上のユダヤ人が虐殺された。本作品はアーカイブ写真と文書の読み上げによって構成された、このルーマニアにおける最初のユダヤ人大虐殺についてのドキュメンタリーである。手法は『The Dead Nation』と同様で、時代は連続しているので、続編と呼んで差し支えないだろう。第一部では、殺された故人の遺された写真を提示し、どうやって殺されたかを記した故人の家族の、時に本人の手記/証言を読み上げる形で彼らの弔いと彼らの存在を歴史に刻み込む行為を同時に行う。ある者は逮捕されて射殺され、ある者はそのまま強制収容所へ送られ亡くなってく。文書の読み上げには全く感情が籠もっておらず、一人のパートが終われば次の読み手が次の故人について話し始める。その量の多さに恐怖するとともに、無機質で機会的な読み上げが積み重なることでモザイク的に当日のヤシ市の空気感を我々の頭の中に再構築していく。しかし、人間の想像力には限界がある。そして、それを超えた現実がそこにはあったのだ。160分近くに及ぶ第一部の次に現れる第二部では、ドイツ軍によって実際に撮影された連行される人々や虐殺現場の写真が無言で映し出される。グロテスクな映像が飽和する現代において、被害者たちの実際の写真を多用することは、被害の記録にはなるものの、観客たちには逆効果になることはよく分かっているのだろう。作品を貫く事物を最後に映す手法は、『I Do Not Care If We Go Down in History as Barbarians』や『Uppercase Print』といったルーマニアの近代史を描いた際にも用いられている。

フィクションとドキュメンタリーを通して故国の歴史を向き合い、それを次世代に伝えていこうとする点で、最近のラドゥ・ジュデはセルゲイ・ロズニツァに似てきているような気がする。
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