湯っ子

僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46の湯っ子のネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

アイドルのことは全然詳しくないのだけど、欅坂には惹かれるものがある。フォロイーさんのレビューで本作を知り、鑑賞。
甲子園で、エースが肩を壊すまで投げ続ける。駅伝で、朦朧とした意識のランナーがたすきをつなぐ。そんな「青春残酷ショー」を見ているようだった。
絶対的センター平手友梨奈が心身ともに追い詰められながら見せるパフォーマンス。コンサートの舞台裏に轟音のように響く歓声が、曲の合間、息も絶え絶えの彼女に襲いかかる。ファンが愛と期待を込めて叫ぶ声が、こんなに暴力的におそろしく響くものとは知らなかった。
振り付け師の男性が語る、「欅坂は背負い人」という言葉がこのグループを的確に表していると感じる。人々の痛みやネガティブな思いを体現しつつ前進する彼女たちは、そしてその中でも際立つカリスマ性を持ち、その世界観の中に自身を閉じ込めたような平手友梨奈は、たくさんの人々の思いを背負っている。というより背負わ「されて」いる。
ファンもメンバーもプロデュースする大人たちも、そしてきっと誰よりも彼女自身が、「センターは平手じゃないと」って思いだったんだろう。そして、その愛や期待と同じくらいの量の批判やヘイトも彼女の心を刺し傷つけ砕く。
どれだけの重さを背負い、どれだけの血を流しながら彼女は踊っていたんだろうか、もう限界はとうに超えていたように見えた。

私が思い出したのは、2019年、岩手県大会決勝での佐々木朗希。高校生最速163k/hを投げる注目のピッチャーだったけど、監督の判断で故障予防のため登板しなかった。賛否両論あったけど、私はこの監督の判断は英断だったと思う。
アマチュアスポーツとアイドルの興行とは違うとは思うけど、平手友梨奈のまわりにはこういう大人がいなかったんだろうか。

「みんなは欅坂をやってて楽しいですか?」
平手が脱退をメンバーに申し出た時、投げかけた言葉が印象的。
作中のインタビューでは、「みんなで手をつないで崖の淵に立ってるみたい」って言ってるメンバーもいたし、「感情を犠牲にしてる」って言ってるメンバーもいた。

平手のいないコンサートで代役をつとめたメンバーはやっぱり普通のアイドルで、平手のようなカリスマがかったパフォーマンスはできない。それは誰よりも本人がいちばん感じていて、それでも自分にできる最良のパフォーマンスをしようと必死で踊る姿に心を揺さぶられた。
平手が自分から欅坂を離れることを決められたのは救い。

タイトルには「僕たちの嘘と真実」とあるけど、この中にはきっとそれのどちらもなくて、見えない・語られないもっといろんなことがあるんだろうと感じた。「私は他の人と思ってることが違うから、それをここでは話せない」と語っていたメンバーの言葉にモヤモヤが残る。
湯っ子

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